ガリレオX

中性子とミュオンで透視! 日本刀の謎にせまる先端科学

BSフジ
本放送:12月13日(日)昼11:30~12:00
再放送:12月20日(日)昼11:30~12:00

 「折れず、曲がらず、よく斬れる」と形容される日本独自の刀、「日本刀」には謎が多い。特に江戸時代より前の「古刀」の製法は口伝であったため、歴史の荒波の中で消失してしまったと思われる。日本刀のこれまでの研究方法は、他の多くの文化財と同様、破断して顕微鏡で断面を調べるといったものであったが、刀身の部位ごとに異なる細部の結晶組織構造まではわからなかった。そこに登場したのが中性子や、ミュオンといった量子ビームを刀に当てて内部を調べる方法だ。非破壊で、日本刀の鉄の結晶子や含まれる炭素濃度を細かく調べることが可能となり、たとえば日本刀の「古刀」の美しさの謎や、「五箇伝」という地域独自の製造方法の違いについて、新しい知見が得られると期待されている。また、時代の変遷による日本刀の系統の解明が進めば、失われた技法、ロストテクノロジーも復興できるかもしれない。加速器を使った量子ビームが光をあてる、日本刀研究の最先端を紹介する。

美しすぎる、斬れすぎる「古刀」の謎
 約800年前の鎌倉時代の刀が、朽ち果てることなくいまだ光り輝いていることの不思議。そして、たたら製鉄で作られた鉄を、折り返し鍛錬しなければ、美しいさまざまな刃文が刀身に現れることはないことの不思議。日本刀とは、単なる鉄の武器ではなく、美術工芸品にまで高められた特異な存在だ。大きくわけて日本刀は、江戸時代以降のものを新刀、江戸時代より前のものを古刀と呼ぶ。刀剣博物館の石井彰主任学芸員によれば、こと刃文の美しさについては鎌倉時代の古刀が絶頂期で、現代の刀鍛冶もそれを超えられないという。それが日本刀の大きな謎のひとつだというのだ。どうすれば鎌倉時代の古刀に近づけるのか、これまで多くの刀匠が試行錯誤を重ねてきたが、答えは出ていない。謎を解く鍵は何なのか、原材料なのか、鍛錬の仕方なのか、それとも焼入れ技術なのか、皆が知りたがっている。

中性子ビームで非破壊のまま日本刀を調べると・・・
 古刀の作刀法や材料特性の謎を解き明かすため、これまでは刀を破断して断面を顕微鏡で観察する手法などがとられてきた。だがそれは通常、歓迎されないため、なかなか研究が進まなかった。そこに現れた新しい研究手法が、刀を壊さず、非破壊で分析ができる、中性子ビームを使った測定方法だ。名古屋大学の鬼柳善明教授は、三振りの古刀と一振りの新刀を準備し、中性子ビームを当ててその結晶組織構造をブラッグエッジ透過法という独自手法で分析した。舞台となったのは物質・生命科学研究施設(MLF)、利用したのは大強度陽子加速器施設(J-PARC)から放たれる陽子ビームだ。核破砕反応から中性子ビームを作り出し、四振りの刀にぶつけるのだ。その結果、比較した古刀のあいだには、おそらく作刀法の違いによる異なる結晶組織構造がみつかり、古刀と現代刀のあいだには、焼入れについて顕著な差が認められた。その内容とは?

素粒子ミュオンで日本刀を透視する!
 X線よりもずっと物質を透過する力が強い素粒子である宇宙線ミュオンを使って、ピラミッドの中に隠された部屋を透視したり、火山のマグマ溜まりの位置を透視したりする研究成果を聞いたことはないだろうか?日本刀を透視するのにそのミュオンが必要になりそうだ。微量な炭素を含む厚い鉄の塊である日本刀にミュオンを当て、刀身のあらゆる深さの元素組織を測定しようというのだ。こちらも実験の舞台となるのは同じくMLFで、やはりJ-PARCから放たれる陽子ビームから、今度はミュオンビームを作り出して日本刀に当てる。国際基督教大学の久保謙哉教授はミュオン寿命測定法という新しい測定法を開発した。鉄の中に含まれる精密な炭素濃度の分布がわかるようになり、そこから日本刀の材料の鉄の産地から刀の鍛え方まで、新しい情報が得られるようになると期待されている。非破壊で物質内部を測定する先端技術の活用は始まったばかりだ。


主な取材先
石井 彰さん (刀剣博物館)
鬼柳 善明さん (名古屋大学)
久保 謙哉さん (国際基督教大学)
三宅 康博さん (高エネルギー加速器研究機構)
下村 浩一郎さん (高エネルギー加速器研究機構)
及川 健一さん (日本原子力研究開発機構)
ハルヨ ステファヌスさん (日本原子力研究開発機構)
東映太秦映画村 エヴァンゲリオン京都基地

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