頭から足が?食道が脳を貫通?異質な生物「頭足類」
私たちの食卓によくのぼる海産物としても親しまれるタコとイカ。彼らは一体どんな生物なのだろうか?その体は、頭から足が生え、食道が脳を貫通して口と胃を繋ぐなど特異な点が多い。系統分化をみるとタコとイカは、大昔に絶滅してしまったアンモナイトや現在も深海に棲息するオウムガイと同じ「頭足類」の仲間で、実は貝などを含む軟体動物の一種だ。大きな特徴としてタコとイカはどちらも大きな眼をもち視力が良く、その視覚情報を処理するための巨大脳も持ち合わせており、その体重に対しての脳重量の割合は無脊椎動物の中で最大である。ゆえに我々霊長類とは異なるタイプで相応の「知性」を持っていることが確かめられつつある。
群れる「イカ」
タコよりも2本腕が多く、特有のヒレを駆使して泳ぐのが「イカ」だ。彼らは群れで海中を泳ぐ。その隊形はさながら渡り鳥だ。群れを形成するイカの個体間の関係性を、その親密度から調べてみると、人間の社会のようなソーシャルネットワークを形成していることが分かった。さらにイカの「知性」を証明しようとおこなわれたのが『鏡像自己認識』実験で、「鏡に映った自分を自分だと認識する」能力の有無を調べるものだ。その結果は予想以上のものだった。
群れない?「タコ」
イカよりも筋肉質な太い8本の腕を駆使するのが「タコ」だ。近年、カリフォルニア・ツースポットタコの全ゲノム解読がおこなわれ、腕の吸盤にはやはり味覚があることがゲノムの側からも再確認された。更に最大の成果として、タコの遺伝情報の量はヒトに匹敵するレベルであることが判明した。また、タコの「知性」に興味をもった沖縄の高校生たちが、「タコも見かけで判断するの?」というタコによる人間の顔の認知実験に取り組んでいる。従来からのタコ単独行動説を覆すような観察結果もあり、タコにも鏡像自己認識ができる可能性が出てきた。
「タコ腕コンピューター」
タコの大きな特徴のひとつが、柔らかく自由自在に動く腕だ。体内の神経細胞の多くが腕に偏在しており、その動きは脳の処理に頼り切ることなく、言わば「腕の意思決定」で制御されているのだ。タコそっくりに水中を泳ぐソフトロボット開発を通して、ある発見をしたのが、東京大学大学院の中嶋准教授だ。「生物の体の構造には、その動きの制御のための計算機構が実装されている」という考えのもと、シリコン製のタコ腕模型の中にセンサーを埋め込んで左右に動かすと、なんとその模型自体が、ある特殊な計算を高速で行うことができる「物理的リザバーコンピューター」になるのだという。
主な取材先
琉球大学 池田 譲さん
東京大学大学院 中嶋 浩平さん
沖縄科学技術大学院大学 杉本 親要さん
沖縄県立コザ高等学校 生物部