ガイア理論
地球はまるで生命体?故ジェームズ・ラブロック博士が提唱した「ガイア理論」によると、私たちの地球は生きているかのように生物と無生物が協力し合い、自ら環境を調整しているという。しかし、そのバランスは今、人間由来の気候変動や環境破壊によって危機に瀕しており、ラブロック博士は地球温暖化が文明崩壊を加速させると悲観していた。人類と自然の関係を見つめ直そうという未来への警鐘はいま。
エコロジーの起源
ある科学的な予測によると、私たちがいまエコロジーと向き合わなければ、わずか数世代で地球の生態系が崩壊してしまうという。「エコロジー」という言葉を聞いてすぐに思い浮かぶのは、日常のエコバック使用やゴミの分別、環境に配慮した土木工事などで、ここでのエコロジーは「自然保護」という意味合いで使われている。だが本来のエコロジーとは、生物学における「生態学」を意味する。人間と自然の交流、物質とエネルギーの循環を理解し、真のエコロジーを考えることが、未来の鍵となる。
誇張された進化論とマルサスの罠
「エコロジー」という言葉を作り出したのは、ドイツの生物学者ヘッケルだ。ダーウィンが「種の起源」で進化論を提唱すると、ヘッケルは進化論に強い感銘を受け、「強い者、優れた者が生き残る」と拡大解釈して世に広めた。歴史的にはそれが社会ダーウィニズムやナチスの優生学思想へとつながってしまう悲劇があった。そもそもダーウィンの進化論は、経済学者マルサスの「人口論」に触発されたもので、「人口の増加スピードが必ず食料生産のスピードを上回る」という事実により、飢餓、戦争、貧困が引き起こされることを、生物全般にまで敷衍したものだ。人間の「生き残るための進化」は、いかにして環境や社会に深く関わっているのだろうか。
エコロジーからエコモダニズムへ
食料不足による人口の上限「マルサスの罠」を打ち破ったのは、ドイツの化学者リービッヒが開発した化学肥料だ。リービッヒは、農作物の成長には土壌中の窒素・カリウム・リンなど無機栄養素が不可欠であることを発見し、これらを人工的に補うことで農地の生産性を劇的に向上させた。化学肥料の登場により、世界の人口は19世紀初頭の10億人から現在の80億人超へと急増した。しかし、その一方で人類の活動が環境問題や公害を引き起こし、地球全体のエコロジーに影響を与え始めた。それに対応するため、科学と工学の力で持続可能な社会を目指す「エコモダニズム」という新たな考え方が生まれた。つまり、リービッヒの発明は人類の生存可能性を大きく広げた一方で、私たち自身が地球の未来を左右する時代へと突入したのだ。
バックミンスター・フラーからスチュアート・ブランドへ
エコモダニズムの先駆者のひとりに、建築家で思想家のバックミンスター・フラーがいる。フラーはジオデシック・ドームなど革新的な構造を設計し、地球をひとつの「宇宙船」と捉えて、科学技術で地球資源全体を合理的に管理するという「宇宙船地球号」の思想を抱いた。このフラーに影響を受けた編集者で作家のスチュアート・ブランドは伝説の雑誌「ホール・アース・カタログ」で、コンピュータなどのテクノロジーにより個人の能力をエンパワーして、国家や大企業を超えた力となる変革を目指した。だが時を経てブランドは、地球温暖化への危機意識から、原子力発電や遺伝子工学を支持する考え方に変更を表明し世間を驚かせた。
気候工学としてのジオエンジニアリング
経済学と生物学から発展したエコロジー思想はやがて、科学技術を積極的に活用するエコモダニズム路線へと発展をみせた。フロンガス規制によるオゾン層の回復や、2015年のパリ協定など国際協調も成果をもたらしてきた。そして現在は地球温暖化対策として、気候変動の科学的評価を行い、太陽光を反射して地球を冷やすジオエンジニアリングいわゆる気候工学が研究されている。だが気候工学を運用するには国際的な合意も不可欠となり、喫緊ではあるもののその技術は最終手段だ。人間と自然の新たな関係構築が求められている。
主な取材先
藤井一至さん(福島国際研究教育機構 土壌ホメオスタシス研究ユニット)
日埜直彦さん(建築家)
杉山昌広さん(東京大学 未来ビジョン研究センター)