ガリレオX

生命現象の原理を知りたい  生物と無生物とを分けるもの

BSフジ
本放送:05月12日(日)朝08:28~08:58
再放送:05月19日(日)朝08:28~08:58

 「なぜ物質が生じ、生命が誕生し、私たち人間が存在するのか?」そんなことを考えながら、休日に熱いコーヒーを淹れる。砂糖とミルクも入れて、軽くかき混ぜる。しばらくして気づくと、コーヒーと砂糖とミルクが全て混ざって均一になり、常温のコーヒーになっている。これが、一定の温度のもとで大きな時間変化も大きな流れもない“バランス”した状態、「平衡状態」だ。これは「熱は温かい方から冷たい方に移動し、自発的にはその逆はない」という熱力学第二法則の現象で、宇宙スケールで言えば、あらゆる秩序は必ず壊れ、無秩序へと向かうことを示している。ではなぜ生命のような、無秩序から秩序を自ら作り出して動きまわる存在が生まれたのだろうか?実は、自然界には、流れ込むエネルギーや物質によって自己組織化が起こり、新たなパターン(秩序)が生まれることが多くある。例えば大気や水の循環はその代表例で、それを「非平衡状態」という。砂丘の風紋や雪の結晶のような、この非平衡状態で起こる「秩序」と「乱れ」が混在した複雑な運動が、多様なパターンを生みだし、生命現象の原理にもなっているというのだが・・・。生命現象の探求にはどんなアプローチがあるのか、化学、物理学、哲学の研究者に、それぞれ話を聞いた。

【新陳代謝とは散逸構造である】
 現在の人間を含む生物の多くは、有性生殖によって生まれるが、生命進化をさかのぼると、以前の生物は体細胞クローンで増える無性生殖が主流で、さらに原初では、分裂で増えていく単細胞生物だった。ここで生命の起源に何が起こったのかを探ることができれば、生命現象の原理に近づくことができそうだ。応用化学を専門とする慶應義塾大学の朝倉浩一教授は、生命系を「自発的に動く現象」と定義するなら、人工的な非生命系にも同じ現象を見い出すことができると言う。「具体的にはそれは『平衡から遠く離れた非平衡状態の化学系』です」そう言いながら朝倉教授は、BZ反応という、「含まれる物質の濃度が酸化と還元により周期的に変化して化学波が起こる現象」を応用した、とある実験を見せてくれた。すると そのBZ反応系で生成されたゲル状物質が、まるで生き物のようにピクピクと動く様子が観察されたのだ。これは、「物質やエネルギーが絶えず流れ込む非平衡状態」が作り出す秩序維持の仕組み「散逸構造」によって生じた「動く現象」であり、生命系でいう馴染みある言葉「新陳代謝」と同義だという。このことから、生物の発生以前に起こった化学進化にはこの散逸構造が関わっていたと推測されるのだが・・・?


【生物を動く粒子、アクティブマターと考える】
 物理学のひとつに、生物を「自発的に動く物質」と捉えて、その規則性に注目するアクティブマターの物理学がある。具体的には魚の群れや鳥の群れを構成する生物一体一体を、さらには生き物の体の中の細胞、それを構成するたんぱく質、さらには分子や原子までのひとつひとつを、物質的な粒子として捉えるのだ。非平衡物理学を専門とする東京大学大学院の竹内一将准教授の研究室で、大腸菌や枯草菌のようなバクテリアを使ったアクティブマターの実験を見せてもらった。すると、普通の状態ではバラバラに動き回り無秩序だったバクテリアが、遠心分離機で濃縮状態にすると隣あったバクテリアたちの向きが揃い、全体として不思議な乱流運動が生まれていたのだ。これは水などの物質では決しておこらない現象だ。ならばこうした自分自身で動き回る粒子を、生き物がどのように活用しているのか、竹内研究室では生命現象の観察から、生命現象の解明と制御へと研究が進んでいる。


【哲学者ホワイトヘッドが考えた生命現象の原理】
 生命現象の原理について、哲学はどう考えてきたのか?古代ギリシャ以来の中心テーマだった存在論は、17世紀のデカルト登場によって、我々の認識構造をチェックする認識論へと主流が移り、<私>と世界が分離されて、生命と物質とは別々のものだと考えられるようになっていた。哲学を専門とする中央大学の中村昇教授は、それに対して20世紀に活躍したイギリスの哲学者ホワイトヘッドは、われわれの認識構造と世界や宇宙とは地続きであり、無機物も有機物も包摂する大きな流動状態である「活動的存在」によって織りなされるため、生成消滅をし続ける世界や宇宙のすべてのものが「生きている」と考えたと言う。一般相対性理論や前期量子論など当時最先端の科学の影響を受けていたホワイトヘッドは、形やパターンが持続的に形成される流動状態にある宇宙全体を「有機体」と捉え、非平衡の化学や物理学にも通じる新しい生命観を提示していたとも言えるのだ。


主な取材先
◆朝倉浩一さん (慶應義塾大学)
◆竹内一将さん (東京大学大学院)
◆中村昇さん (中央大学)

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