睡眠と脳の密接な関係
私たちは「おやすみ」という言葉で1日を締めくくるが、睡眠中、脳は休んで1日の疲労を回復しているだけではない。起きている時にはできないような特殊な情報処理を行なっていることが近年明らかになってきており、その副産物が『夢』なのだという。富山大学の井ノ口さんらはマウスの行動実験から、経験の共通性に『気づき』を得ることができるのが睡眠中であることを発見した。
脳がない動物が眠る!?
睡眠が脳のために重要であることは言うまでもないが、もし脳がなければ眠る必要もないのだろうか?実は近年、クラゲやイソギンチャクなど、脳をもっていない刺胞動物の仲間である『ヒドラ』が眠っているような行動をとっていることが明らかになったのだ。そして、ヒドラの睡眠をめぐり様々な実験を行ったところ、ヒドラはどうやらは私たちと同様の睡眠を行なっていることが見えてきた。
眠気はどこから来るのか?
ところで、私たちに睡眠をもたらす眠気は一体どこからやってくるのだろうか?東京大学の林さんらは、数千匹にものぼる線虫にランダムな突然変異をおこして、通常よりも2倍も長く眠る『ロングスリーパー』の線虫を生み出した。そしてこの線虫のどの遺伝子に突然変異が起きたのかを調べると、私たち哺乳類にも共通して存在するSEL-11という遺伝子に欠損があることがわかった。しかし、このSEL-11の欠損によってどうして線虫は長く眠るようになったのか?林さんによると、長時間の活動などによって身体中の細胞の中で生じる『小胞体ストレス』がその鍵を握っているという。
不眠症を改善するための新たな選択肢“認知行動療法”
眠りたくても眠れない不眠症は、日本のみならず世界中の人々を苦しめている。睡眠不足とは異なり『眠りたいのに眠れない』という症状のため、これまでは睡眠薬で入眠を促すことが主流だった不眠症治療だが、近年新しい治療法に注目が集まっている。それが認知行動療法だ。睡眠のための行動や考えかたを改める様々な手法を組み合わせることで、眠りを改善するこの認知行動療法の中でも、特に効果の高いと考えられるものが絞り込まれてきていた。
徐々にその謎が明らかになってきた『睡眠』。最新の科学研究が明らかにするその本質に迫る。
主な取材先
井ノ口馨さん(富山大学)
伊藤太一さん(九州大学)
林悠さん(東京大学)
古川由己さん(東京大学医学部附属病院)