カブトムシのサナギの中身が知りたい
幼虫の姿とはまったく異なる成虫へと変身する完全変態昆虫カブトムシ。変態が起こるのは、私たちが見ることができないサナギの中だ。東海大学大学院博士課程の池上聖人さんは、高解像度のMRIを使い、カブトムシの個体が幼虫からサナギ、サナギから成虫になるまでの体組織の変化を、生きたまま連続的に観察することに世界で初めて成功した。そこには、幼虫の時の体組織が崩壊し、その体液でサナギの消化管がパンパンに膨らんだ、想像もしていなかったカブトムシの姿が写っていた。まさに眼に見える自己組織化現象だ。
超分子化学で自己組織化を制御する
自己組織化とは生命現象にだけではなく、そもそもは自然界の無機物に多く起こる現象だ。物質・材料研究機構の有賀克彦さんは、超分子化学によって炭素原子が結合したフラーレンの分子の自己組織化を操作し、マイクロサイズのサイコロや、卵から尻尾が生えてオタマジャクシになるような形態変化を作り出している。そして、分子の世界と生き物の世界とを繋いでいるのが自己組織化だという。
自己組織化で建築される?ミツバチの巣
山口大学准教授の鳴海孝之さんは、ミツバチの巣のハニカム構造は自己組織化で作られるのではないか?という仮説を立てている。外部からの指示もなく、生後2週間で巣作りに参加するミツバチたちが、なぜ六角柱がきれいに並んだ巣を作れるのか?その原理はずっと謎だった。鳴海さんは、巣作りに使われる蜜蝋という物質に注目し、それをコンピュータシミュレーションにかけてみると、自己組織化の関わりが濃厚な、そる仕組みが見えてきた。
自己組織化で決まるアリたちの分業労働
アリのコロニーでは、設計図もリーダーもいないのに、複雑な分業が瞬時におこなわれている。明治大学特任教授の西森拓さんは、世界最小レベルのRFIDタグをアリの背中に取り付け、のべ5000匹のアリの行動を、数ヶ月にわたり長期計測することに成功した。すると、ほんの少しの労働意欲の違いによってアリの行動に多様性が生じ、その結果、働く・休む、といった行動がコロニー全体の中で自己組織化されたというのだが、まだまだ謎もあるという。
主な取材先
有賀 克彦さん(物質・材料研究機構)
鳴海 孝之さん(山口大学)
西森 拓さん(明治大学)
黒田 輝さん(東海大学)
池上 聖人さん(東海大学)