ガリレオX

顔の科学 ”変わりゆく顔”のゆくえ

BSフジ
本放送:08月14日(日)昼11:30~12:00
再放送:08月21日(日)昼11:30~12:00

 マスクをした「顔」が新しい生活習慣となってから2年半が経とうとしている。日常的に他人の顔全体が見えなくなったことで、逆に私たちの中で顔の存在感は増し、「顔の研究」も活発化している。他人の顔を認知する脳のメカニズムはどうなっているのか?喜怒哀楽などの基本的な感情は、どのように表情に表れるのか?若者がプリクラで撮ったり、SNSに投稿したりする顔写真を、なぜ加工して「盛る」のか?そして、顔も含んだ外見による、優遇や差別(ルッキズム)をどう考えるのか?認知心理学や工学、メディア環境学や社会科学など様々な領域にまたがり、意欲的な科学研究が続いている。社会と個人の関係を作り、リアルとバーチャルの狭間にある「顔」研究の現在に迫る。

顔の認知心理学
 人は目で見た他人の「顔」をどのような仕組みで認識しているのか、赤ちゃんの脳活動をとおして調べる研究が進んでいる。中央大学の山口真美教授によると、トップヘビーと呼ばれる、上に目が2つ、下に口が一つという顔の特徴が重要で、赤ちゃんはなんと、胎内にいる新生児のときからその顔の特徴点を見分けることができると言う。人は頭の中にどうやら「顔を見るためのモノサシ」を生得的に持っており、それが非常に速い認知の発達に役立っているというのだ。

顔の魅力がわからない!
 人の「魅力」について考えるとき、それがその人の「顔」の魅力のことを指すのか、その人「総体」での魅力を指すのか、分けて考えることは難しい。早稲田大学の渡邊克巳教授によると、人の頭の中にある「顔を見るためのモノサシ」を可視化する具体的な実験手法として「逆相関法」があると言う。複数の人の顔で作った平均顔にランダムノイズを掛け合わせ、そうしてできるランダムな顔に、人がどのような印象を持つかを調べる実験だ。どんなランダムノイズが顔の印象に関わるかが判明すれば、個々人の頭の中にある「顔を判断するバイアス」が明らかになると言う。このことは「マスクの下の顔」が想像していた顔と違うという不思議な現象にも関係すると言うが?

人類共通の基本感情理論
 どんな人種、どんな言語、どんな文化を背景に持つどんな人にでも共通する基本感情というものがあるという。それは、喜び、驚き、恐れ、悲しみ、怒り、嫌悪、軽蔑の7つの感情だ。これはネットやテレビなどの現代メディアに触れていない人々も共有していることが確認されており、どんな複雑な感情も、基本感情の組み合わせで生じていると考えられている。金沢工業大学の渡邊伸行教授は、ひとつひとつの顔面筋の動きを細かく観察することによって、表情の変化を読み取り、そこから基本感情の状態を客観的に推定することができると語る。

「盛れてる顔」こそが自分!
 歴史上の美人画の変遷とその特徴を調べて数式化し、画像処理技術としての確立を目指すメディア環境学者の久保友香さんは、工学畑の出身だ。久保さんは現代の若者の「盛り(もり)」にも美人画と共通する特徴を見出している。「盛り」とはメディアを介して人に見られる自分のビジュアル、すなわち顔や身体、ファッションやライフスタイルを、化粧やデジタル加工やロケーションなどで演出することを指す。久保さんはインタビュー取材を重ねて社会学的な調査もおこない、プリクラ写真の「盛れすぎの坂」や、若者が盛る理由などについて、興味深い検証を示してくれた。

ルッキズムを考える
 人を、顔や外見によって差別することを「ルッキズム」と言う。東京大学の田中東子教授のより詳しい定義によると、「見た目というものに紐づけしてある人を評価したり、そしてその評価がある種の差別になったり、不利益につながるような発言になったりする、そういったものを総称してルッキズム」なのだという。ブスいじりやハゲいじりなど、芸人の話芸として長らく放送してきたテレビも、BPOや各局が定めるコンプライアンスにより、ルッキズムに関する発言には配慮するように変化してきている。だが、美しいものを求めるのは人間の人間らしさでもあり、では「美人を好きになってはいけないのか?」という根源的な問いもある。田中教授は、ルッキズムの問題で重要なのは、エンターテイメントの世界と、日常の世界とを、それぞれ別の世界として切り分けて考えることだと言うが・・・。


主な取材先
◆山口真美さん(中央大学)
◆渡邊克巳さん (早稲田大学)
◆渡邊伸行さん(金沢工業大学)
◆久保友香さん(メディア環境学者)
◆田中東子さん(東京大学大学院)

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