ガリレオX

わたしたちの動物観 動物観からさぐる人間の本質

BSフジ
本放送:05月22日(日)昼11:30~12:00
再放送:05月29日(日)昼11:30~12:00

 動物観とは「動物に対する態度」のことだ。それは国や地域の風習、文化、宗教的背景、また個人の経験の違いによっても大きく異なる。こうした動物観は、ペットとの関係性や、野生動物への接し方、家畜の取扱い方などにも影響を与えている。特定の動物に対して「かわいい」と思ったり、あるいは「おいしそう」と思ったりするギャップは誰でも経験したことがあるだろう。動物キャラクターの人気は今でも増す一方だ。ではわたしたちの動物観とはどのように形づくられてきたのだろうか?動物観の違いを説明する「西洋vs日本」のような定説は本当なのか?科学史や動物介在教育学、心理学、比較文学などの研究者に話を聞き、動物観をとおして見えてくる「人間と動物との関係」の本質に迫った。

動物観とはなにか
 『人生観』や『世界観』のように、動物に対する態度や考え方のことを『動物観』という。動物観は子どもの頃の体験や、経てきた人生によって培われるため、ひとりひとり異なっているのが普通だという。動物観研究のパイオニアである動物観研究所の石田戢所長によると、この動物観の違いによって、わたしたちは認識のすれ違いや、文化衝突を繰り返してきたと言う。明治時代の上野動物園で、鎖に繋がれた「暴れ象」をめぐって起きたエピソードを聞いた。

動物観はいつ育まれるのか?
 「わたしたちは生まれた瞬間に動物観を獲得したのではなく、経験によって動物観が育まれる」そう語るのは帝京科学大学教授の花園誠教授だ。花園教授は教育の現場で動物を活用する研究をおこなっている。ある事例では、小学校1〜2年生に、訓練された犬との触れ合い体験をしてもらい、体験前と後とで犬に対する動物観がどのように変わったかを絵画によって確かめた。その結果、興味深い変化が見られたという。

野生動物に対する動物観
 人の手が入らず、ありのままの姿で存在している動物をわたしたちは「野生動物」と呼んでいる。では、この『野生』とは一体何を指すのだろうか?京都大学の瀬戸口准教授によれば、『野生』とは、遺伝的に管理され選別された『家畜』の反対にあたる存在なのだという。そしてこの「野生動物」が日本国内ではじめて意識されたのは1934年頃の「野鳥ブーム」であり、現在も活動している日本野鳥の会がその発端なのだという。だが当時の野鳥の愛し方は、現代とは少し違っていたようだ。

動物が人間を癒す
 根本的な動物観の形成に関わるのはどんな要素だろうか?東京農工大学の甲田准教授の研究チームは動物が出てくる絵本を5,000冊以上調査し、動物を人になぞらえる「擬人化」について定量分析をおこなった。すると、擬人化されやすい動物の種類や、絵本の中に登場する動物の行動の特徴が明らかになった。さらに甲田准教授は、動物と触れ合うことで精神的な健康の回復をねらうアニマルセラピー(動物介在介入)の研究もおこなっている。珍しいのは、まだ学術的な報告がほとんどないモルモットを使ってのアニマルセラピーだ。盲導犬を育成するのと同じ方法で育てられたというモルモットは、セラピーの現場でどんな役割を果たすのか?

文学に見る動物観
 世界中の文学作品の中にも動物はよく登場するが、そこにも様々な動物観が入り込んでいる。例えば、多くの人にとって馴染み深い動物文学「シートン動物記」は、実は日本以外での知名度は低い。その背景には、20世紀初頭のアメリカで起きた「ネイチャーフェイカーズ論争(自然の捏造者論争)」がある。この論争は、シートン動物記にでてくる動物描写は科学的ではないという批判から始まった。東洋大学の信岡准教授は、これこそ動物観の違いが引き起こした衝突だったと語る。信岡准教授はまた、著名な動物写真家だった故・星野道夫の動物観も研究している。星野は欧米とは全く異なる動物観をもつアラスカの狩猟先住民族と共に暮らしながら、独特な写真と文章を残しており、異質な動物観を尊重することが、様々な対立を解決する糸口になるのではないかと読み解いている。


主な取材先
石田 戢さん(動物観研究所)
甲田 菜穂子さん (東京農工大学)
瀬戸口 明久さん(京都大学)
信岡 朝子さん(東洋大学)
花園 誠さん(帝京科学大学)
かみね動物園

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