キメラ=異質同体生物?
フィクション作品でも目にする事があるキメラ。雑種やハイブリッドといった“混血”の状体と混同されることもあるが、科学技術で生み出されている実際のキメラはそれとは大きく異なっている。ハイブリッドの動物は両親それぞれのもつDNAの半分ずつを継承し、全身の細胞が同じ遺伝子を持っているのに対して、キメラは遺伝情報の異なる細胞が一つの体に同居している個体なのだ。
ヒトの臓器を動物の体内に作り出す?
再生医療の研究では、完璧なヒトの臓器を作り出すことが大きな共通目標となっている。そこで東京科学大学の研究チームが行なっているのが、体内にヒトの臓器もつ動物=キメラを作り出すことを目指す研究だ。現在、動物の体内に別の種の動物の臓器を持つキメラを生み出すことに成功しているというが、一体どのような方法で臓器を置き換えているのだろうか?そしてさらに、マウスの皮膚の一部をヒトの皮膚に置き換える実験にも成功しているという。
ヒトと動物のキメラは、社会に受け入れられるか?
私たちは、ヒトの臓器を持った動物を『それは動物である』と言い切ることができるだろうか?しかしそれが臓器でなく皮膚や眼球、また脳だったなら…?私たちのこれまでの常識の枠に収まらないこのキメラを、どう捉えるべきか。それぞれの人が異なる倫理観を持つこの社会のために、そしてヒト-動物キメラによって命が救われる未来のために、新しいルールづくりが求められている。
広がるキメラ研究
動物の臓器そのものをヒトに移植する『異種移植』の研究も近年盛んに行われている。しかし肺などの一部の臓器はこの異種移植で拒絶反応が起きやすく、異種移植は難しいと考えられている。奈良先端科学技術大学院大学の研究チームは、ラットの肺をもつマウスを生み出すことに成功した。このキメラではまだ越えるべき壁があるようだが、異種移植では対応の難しい臓器を作り出すための大きな一歩が踏み出されている。
キメラは、私たちに一体何をもたらすのか?最新研究と可能性に迫る。
主な取材先
正木 英樹さん(東京科学大学)
神里 彩子さんさん(国立成育医療研究センター)
磯谷 綾子さん(奈良先端科学技術大学院大学)