その正体は、近畿大学教授の牧 輝弥さん。バイオエアロゾル研究の第一人者だ。
バイオエアロゾルとは、空気中を浮遊する微生物や、生物に由来する小さな粒子のことを指す。牧さんはこれまで、中国やモンゴルなど、世界中でバイオエアロゾルを採取してきた人物だ。研究に対して強い探求心を持ちながらも、人となりは何とも不思議でユーモラスな雰囲気を醸し出している。
そんな牧教授のバイオエアロゾル研究に密着し、空気中に漂う微生物の不思議に迫る。
人差し指を鼻の穴へ
空気中を漂う無数の微生物をバイオエアロゾルと呼ぶ。しかし、無数に存在するといっても、その姿は肉眼で見ることはできない。日々の生活の中で、その存在を身近に感じることは、あまり無いだろう。
しかし、バイオエアロゾルを身近に感じることができる“絶好のもの”があると牧教授は言う。そして、おもむろに鼻を人差し指でほじりだした。
ちょっと待って牧教授。理由を聞かせてもらおう。
バイオエアロゾルは雲を作り出す?
密着すること数日、山の中を駆け上がる牧教授。どうやら山上のバイオエアロゾルを採取したいそうだ。その理由を聞くと、「雲を作り出す微生物を探している」という。冗談かと思いきや、牧教授の表情は至って真面目。どうやら本気のようだ。
なぜ微生物が、雲を作り出す必要があるのだろうか?そこには、思わずゾッとしてしまう微生物の驚くべきメカニズムが隠されていた。
黄砂が食文化の歴史を変える?
空を茶色く染め、大切な愛車や、大事な洗濯物を汚す、春になると中国から飛んでくる、迷惑な”あるもの”といえば?ご存知の通り、答えは「黄砂」。
牧教授は、黄砂の砂粒に付着している微生物を研究し、アレルギーとの因果関係など、黄砂がもたらす健康への影響を、これまで調べてきた。そんな研究の最中、黄砂がもたらす意外な側面を見出したという。なんと黄砂が、日本の食文化に影響を与えた可能性があるというのだ。黄砂と食文化?
バイオエアロゾル研究から見える日本の食文化の新たな視点に迫る。
巨大洞窟で何が起きている?
牧教授が愛用のスーツケースを、ガタガタと転がし、訪れたのは、国内最大級の鍾乳洞である、山口県の秋芳洞(あきよしどう)。
ヘルメットを被り、躊躇うことなく、牧教授は、暗闇の中へずんずん進んでいく。ヘッドライトを頼りに、ごつごつとした岩肌に触れながら、先の見えない坂道を突き進むと、巨大な鍾乳石が現れた。そこで足を止める牧教授、おもむろにスーツケースを開く。中には自作の観測装置が敷き詰められており、それらを組み立て始めた。どうやら洞窟の中でバイオエアロゾルを観測するそうだ。
全長8㎞以上に及ぶ秋芳洞。この巨大な鍾乳洞の中で、バイオエアロゾルを調べることで何が分かるというのだろうか?地下世界のバイオエアロゾルに迫る。
主な取材先
牧 輝弥さん (近畿大学)