ガリレオX

科学から考える 呪術・妖術・シャーマニズム

BSフジ
本放送:12月11日(日)昼11:30~12:00
再放送:12月18日(日)昼11:30~12:00

「呪術」や「妖術」と聞いてまず思い浮かぶのは、呪いの藁人形や丑の刻参り、あるいは陰陽師といったイメージだろうか。これらはオカルトの領域に思われるかもしれないが、実は呪術も妖術も、れっきとした学問対象として研究が積み重ねられてきた。科学が現象のプロセスを説明するものであるのに対して、呪術は出来事が起こった理由を説明するものだ。例えば、カメルーンの妖術「エリエーブ」は、本人の意思とは関係なく発動し、病気や怪我や死といった不幸だけでなく、酒癖の悪さや女たらしといった問題行動の理由説明にもなる一風変わった妖術だ。また、モンゴルでは、近年勃興したヒップホップが、モンゴルにもともとあった精霊信仰におけるシャーマンの祈祷歌や召喚歌の「韻踏み」との間に強い連環が指摘され、興味深い比較研究が続いている。現代社会で今、呪術や妖術を考えることの意味はどこにあるのか?合理化の極みに至っている人間観、自然観からとりこぼされた重要な何かについて、呪術・妖術・シャーマニズムの研究を通して考えていく。

呪術を科学的に考える、とは?
 「超自然の力を働かせる」と定義される「呪術」や「妖術」は、科学による近代化で社会が大きく変わった20世紀以降、次第に隅へと追いやられ、いよいよ消滅していくかにみえた。だが、これまでと異なる役割を担うことで、現在でも存続している。成城大学の川田牧人教授は、フィリピンのバンタヤン島のフォーク・カトリシズムの中に残る呪術を研究してきた。興味深いのは、宣教師より伝えられ、筆写によって引き継がれてきた祈祷書のラテン語が、言語としての形は崩れながらも、呪文「オラシオン」として民間医療や、豊漁祈願で唱えられている点だ。川田教授によれば、呪術は、科学では扱えない問題を扱うことができるという。一見、ただ非合理的なだけにみえる呪術の考え方が、なぜこれまで長きに渡り様々な社会で成立してきたのかも、そこに理由があるという。


カメルーンの一風変わった妖術、エリエーブ
 妖術が呪術と異なるのは、自分の意思に関係なくその力が発動し、周囲に影響を与える点だ。椙山女学園大学の山口亮太さんによると、アフリカのカメルーンの農耕民バクウェレの間では、一風変わった妖術「エリエーブ(elieeb)」が社会に浸透しているという。エリエーブは間接的に他者を傷つけ、病気にすることもあるが、エリエーブの持ち主に対して暴れるまで酒を飲めと命令してきたり、女の人を見たら声をかけろと命令してきたりもする、迷惑だが害というほどでもない存在として認識されている。エリエーブに関する相談は村の呪医が受け持つが、独特の鍋占いを主体とした診療の様子は、心療内科におけるグループカウンセリングにも似ており、妖術の社会的な役割は大きい。
「自分の行動の理由を合理的に全て説明できる」のが、例えば今の日本社会などで求められる人間像だが、明確にすべてを説明できることの方が、実は人間として特殊なのではないか、と山口さんは語る。

モンゴルのシャーマンとヒップホップ?
 シャーマンとは、精霊や霊界と交信することができる祈祷師のことで、呪術も使う。シャーマンには精霊や動物霊が憑依したり、先祖霊が憑霊したり、あるいは精霊の姿が見えて声が聞こえたり、魂が肉体から抜け出て別の世界を見たり、といった能力があるとされる。モンゴルのシャーマニズムを研究してきた国立民族学博物館の島村一平准教授は、シャーマンの歌う祈禱歌とシャーマンドラムを聞き続けるうちに、現代のヒップホップ音楽におけるラップとの間にある共通項を見つけたという。一見すると結びつかないように思えるシャーマンとラッパーだが、霊が降りてきて語る時の「韻踏み」と、ラッパーが社会問題を鋭く突くライムの「韻踏み」とが、社会的に同じ役割を果たしているというのだ。その話について詳しく聞いた。


主な取材先
川田 牧人さん (成城大学)
島村 一平さん (国立民族学博物館)
山口 亮太さん (椙山女学園大学)

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