大阪・関西万博で発表された未来の住宅
開幕中の大阪・関西万博の会場に一際目立つパビリオンがあった。それは建物の外装全てが西陣織で構成された曲線的な建造物。日本の住宅メーカーの飯田グループと大阪公立大学という異色の共同研究によって誕生したパビリオンだ。
共同研究のキーワードは住宅と人工光合成。パビリオンの内部には世界でまだ誰も実現していない未来の住宅が発表されていた。それが生活に必要な全てのエネルギーを自ら賄うというこれまでにない住宅だ。
世界初の実証実験
実は万博が開催される最中、パビリオンに併設された施設で人工光合成の実証実験が続けられていた。実験の目的は人工光合成という技術によって未来の住宅に必要な電力を作り出すこと。その実現のために、研究者たちはこれまで3つの装置を開発してきたという。
今回の実証実験は人工光合成の基礎技術だけでなく、発電に至るまでの全ての要素技術を検証するという世界初の試みだ。果たして3つの装置を使って発電することはできるのか?まさに世紀の一瞬とも言える実験が、今始まろうとしていた。
実は、ここに至るまでには約10年にわたる知られざる研究者たちの挑戦があったのだ。
人工光合成で蟻酸を生み出す
万博開幕前の2月下旬。今回の共同研究の研究拠点である大阪公立大学の人工光合成研究センターでは、実証実験に使用される装置の最終調整が進められていた。
未来の住宅に必要な電力を作り出す上で最も重要となるのが、人工光合成という技術で発電に必要なエネルギー源を生み出すことだ。今回開発された人工光合成装置では太陽光エネルギーと二酸化炭素と水という植物が行う光合成と同じ材料をもとに蟻酸という化合物を作り出すという。
太陽光エネルギーを利用して開発に必要なエネルギー源を生み出すという人工光合成装置とは?
蟻酸から水素を生成。そして水素発電へ
人工光合成技術によって蟻酸というエネルギー源ができたとしても、それだけで住宅に必要な電力を生み出せるわけではない。発電を行うためにはさらに2つの装置が必要だった。
その一つが蟻酸から水素を生成する装置。触媒の働きを利用して蟻酸を分解することで水素を生成するのだという。
もう一つが生成された水素を使って発電を行う装置。現在、水素を用いた様々な発電方法が存在する中で独自の発電方法を模索してきたという。
電力を供給するための2つの要素技術に迫る。
万博会場での実証実験へ
万博の開幕が迫る3月上旬。開発された3つの装置が万博会場へ向けて運び出された。
いよいよ世界初の実証実験が開発される。万博開催中の約6ヶ月間にわたって、全ての装置を稼働させ、その発電効率を調べる大規模な試みだ。
実はこれまで開発された3つの装置を接続し、発電システムの全工程を試したことは一度もないという。果たして本当に発電できるのか?期待と不安が入り混じる実証実験に密着した。
主な取材先
天尾豊さん(大阪公立大学 人工光合成研究センター)
南繁行さん(大阪公立大学 人工光合成研究センター)
松原康郎さん(大阪公立大学 人工光合成研究センター)