食欲と肥満
自他ともに認める肥満体型の田上さん。体重130kgを超える彼の食欲は旺盛だ。
「お腹いっぱいだなと思ってもどうしても、もうちょっと食べちゃおうかなみたいなのはありますよね。」
たくさん食べたのにまだ食べたくなる。こんな経験をお持ちの方も多いはず。
しかし、そもそもなぜ食べ過ぎてしまうほどの食欲が湧き上がるのだろうか?
食欲を司る脳の働き
長年ラットの脳を使った実験により、脳の働きと肥満との関係性を探り続けてきた研究者がいる。名古屋大学大学院教授の中村和弘さんだ。
脳の視床下部は食欲を湧かせたり、抑制したりして食欲をコントロールしている。この脳の働きを調べることで肥満の謎に迫るというのだ。
では実際に脳はどのように食欲をコントロールしているのか?その一例が飽食シグナルという食欲を抑制する働きなのだという。
それでも肥満はなくならない
実は生物には、肥満を避けるために必要以上の食べ物を食べないようにする仕組みが備わっている。
しかし、それでも肥満が無くなることはない。その原因の一つがレプチン抵抗性という問題だ。
このレプチン抵抗性の原因を探るべく中村さんはある受容体に注目した。
そしてその研究の過程で脳の神経細胞表面に生える一次繊毛という存在を突き止めることになるのだ。
一次繊毛が太りやすさを決める
中村さんが発見した一次繊毛を調べると驚くべきことが分かった。
実験によって太ったラットの一次繊毛はなぜか短く、標準体型のラットの一次繊毛は長いことが判明したのだ。つまり一次繊毛の長さの違いで、太りやすさが変わる可能性があるようだ。
ここから研究者たちは一次繊毛の長さと肥満の関係を調べる新たな実験を進めることになる。
肥満への負のスパイラル
様々な実験によってわかったことは「加齢や食べる量によって一次繊毛が短くなること」。そして「一次繊毛が短くなると太ること」だった。
そして新たな疑問が浮かび上がる「一次繊毛が短くなる原因は何なのか?」。
その原因を特定するために研究を続けてきた中村さんたちはこれまでの常識を覆す驚きの実験結果を目の当たりにする。そして「肥満への負のスパイラル」という肥満の原因となる脳の働きを発見したのだった。
主な取材先
中村 和弘さん(名古屋大学大学院)
大屋 愛実さん(名古屋大学大学院)