ガリレオX

リビングデッド・イン・サイエンス ゾンビから考える人間と生物

BSフジ
本放送:10月09日(日)昼11:30~12:00
再放送:10月16日(日)昼11:30~12:00

 死体のまま蘇り、生前の人格や意識を失ったまま徘徊するという架空の存在、ゾンビ。生者を襲い、そして噛まれた人間もゾンビになって感染のように広がるという設定は、COVIT-19のパンデミックを経験した人類には、もう笑い飛ばせないものになりました。意外なことに日本には、死霊という概念に紐づいて「ゾンビ的な存在」が神話時代からあったようです。そして皆がよく知っている映画やゲームで繰り返し描かれてきたゾンビというイメージには、その時々の社会問題への恐怖や懸念が投影されており、「人間とはなにか?」という命題の裏返しです。一方、死んだ魚の口を糸で吊って水流に入れると、不思議と生きているかのように泳ぐ動作をすることから、身体には進化の過程で獲得した「身体性」という機能が埋め込まれていると考えられています。さらに、生物の脳神経系を模倣した4足歩行ロボットの歩行・走行実験では、脳からの信号が無くても歩いたり走ったりできる、つまりゾンビのように脳からの信号がなくても、体だけで自律的に動けることもわかってきました。今後、人間は身体や脳の中にテクノロジーを入れて機械と一体化し、まるで不死を目指すゾンビ的な存在になる可能性があります。ゾンビというイメージを通して、生きているとはどういうことか、そして人間とは何かに迫ります。

ゾンビ、ホラーからエンターテイメントになる
 理性も感情も失い、腐った死体のまま歩き回る化け物、ゾンビ。ホラー映画やホラーゲームの主役としていまでも恐怖の対象だ。だが、その登場から約100年が経ち、怖いけれども、滑稽だったり、面白かったり、親しみやすい存在としてそのキャラクターは変化してきた。例えばハロウィーンではゾンビはコスプレとして人気で、広島県の横川商店街では毎年、ゾンビに特化してコスプレやイベントを楽しむ、横川ゾンビナイトが開かれてきた。ゾンビはどんな存在なのか、イベント発案者の粟河瑞穂さんに話を聞いた。

ゾンビ学でゾンビを考える
 ゾンビ学という学問がある。表象文化としてのゾンビについて研究するものだ。国際ファッション専門職大学の福田安佐子助教によると、映画に描かれてきたゾンビだけでも、その特質に大きな変化がみられてきたという。中でもゾンビが人を食べる「人肉食」が強調される背景には実は、大航海時代からはじまった植民地主義と、そこで生じた「キリスト教的価値観 vs 各地の民族文化」の軋轢があったという。いったいゾンビとどう結びつくのだろうか?また、新型コロナウイルス蔓延の渦中では、コロナ自警団のような匿名グループが個人の正義感を振りかざす現象が各地で起こった。ゾンビ映画はそうした、社会が綻びかけたときの人間の本性を映し出してきた。

日本ゾンビ史!?
 意外なことに日本にも、ゾンビと類似する話が古くよりあったという。例えばそれは神話世界において、黄泉比良坂を逃げるイザナギを、腐りはてた姿で追いかけてくるイザナミの怖さは、そのままゾンビ映画だという。國學院大學栃木短期大学の伊藤慎吾准教授は、例えば平安時代初期に書かれた最古の仏教説話集「日本霊異記」には、死んだ男が蘇り、鬼となって夜な夜な人間を獲り喰らう話があるという。伊藤さんはこの、死んだ肉体に悪い死霊がとり憑いて暴れる「鬼」と、西アフリカやハイチ由来の、呪術師によって操られる「ゾンビ」との間には、文化的背景を超えたところに、ある共通点があると言う。

ゾンビフィッシュの華麗な泳ぎ
 「死んだ魚も泳ぐことができる」と聞けば、そんなことはあり得ないと考えるのが普通だ。しかし、口を糸で吊った魚を乱流を起こした水槽の中に入れると、確かに生きているかのように泳ぐ動きをするのだ。広島大学大学院の栗田雄一教授は、これは生物の体全体が持つ機能性の作用で、「身体性」と呼ばれるものだという。ゾンビが意識や知性なくとも動けるのは、この身体性による動きなのではと推測する。栗田教授はまたゾンビの不自然な動きにも注目し、人間の自然な動きをアシストするロボティクス機器や、ウェアラブル・デバイスへの応用を考えているという。

ゾンビ猫ロボットは4足動物の夢をみるか?
 1970年代の実験に、脳からの信号を遮断した猫、「除脳猫」の歩行と走行を記録したものがある。除脳猫は脳と脊髄の繋がりを脳幹で遮断されているにも関わらず、トレッドミルのスピードに合わせて、ゆっくり歩きから普通の歩き、そして走りへと歩容を変化させるのだ。これは動物の脊髄にあり運動を作り出す神経回路「CPG」が働くためだと考えられている。茨城大学大学院の福岡泰宏准教授は、このCPGを生物を模倣した4足ロボットにプログラムすることで、除脳猫のように脳からの信号がなくても歩き、そして走ることができる、いわばゾンビ猫ロボットの開発を進めてきた。するとなんと、歩容を一つしかプログラムしていなかったにも関わらず、本物の動物がおこなう全ての歩容を、ゾンビ猫ロボットはしてみせたという。それはいったい、どういうことなのだろうか?


主な取材先
粟河 瑞穂さん(横川ゾンビナイト)
福田 安佐子さん(国際ファッション専門職大学)
伊藤 慎吾さん(國學院大學栃木短期大学)
栗田 雄一さん(広島大学 大学院)
福岡 泰宏さん(茨城大学)

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