ガリレオX

我々の祖先は道に迷わなかったのか? 自然観察で道を見つける ナチュラル・ナビゲーション

BSフジ
本放送:03月14日(日)昼11:30~12:00
再放送:03月21日(日)昼11:30~12:00

 もし急にスマホを取り上げられて見知らぬ土地に放り出されたら、私たちは目的地に辿り着けるだろうか?GPS地図アプリ等のナビゲーション無しだと、もはや正確な目的地に到達することは難しいかもしれない。では現代のようなテクノロジーを持たなかった大昔の人々はどのようにして原野を開拓し、山を越え、海を渡っていたのだろうか?まず、自然現象をよく観察して周期性や法則など読み解き、その知識を継承してきた。そして山川草木に表れたフィールド・サインを頼りに、危険を避け、進むべき道を見つけていたのだ。3万年前の人類の航海を徹底再現したあるプロジェクトにより、そのことが科学として語れるようになった。一方、ヒト以外のほとんどと言える動物が、地球の微弱な地磁気を、移動のナビゲーションに利用していることがわかっている。実はヒトにも、完全に潜在意識下ではあるが地磁気感受性が備わっていることが実験で近年、明らかになった。  自然のサインを逃さずに方向を見つけるスキル、「ナチュラル・ナビゲーション」の視点から、万水千山を越え、大海原を航海して地球全域に広がった人類の、これまでとこれからを考える。

いにしえの海図「スティック・チャート」
 GPSナビゲーションが無かった時代、さらには羅針盤はおろか現代のように正確な地図さえ無かった時代の人々は、どうして目視では確認できないような陸や海の目的地に辿り着けたのだろうか?なにか特別な第6感のようなもので、方角や進むべき道が簡単にわかったとでもいうのか?その謎について考える材料が、海上保安庁の海洋情報資料館にあった。それは「スティック・チャート」と呼ばれる海図で、日本から南東へ約4600km、太平洋上に浮かぶ島国マーシャル諸島で19世紀まで使われていたものだ。その特徴は、現代の海図とはまったく異なり、ヤシの枝と子安貝で作られた幾何学的な形状をしている。だが研究によると、スティック・チャートには島嶼間の距離と方向や、一年中変わらない海流の向きなど、航海に必要な情報が記されていると言う。そこから推論されるのは、昔の人々には特殊能力などなく、ただ現代人を遥かに凌ぐ自然観察力と、方角に関する細やかな感覚があったということだ。

動物の痕跡「フィールド・サイン」を追え
 太陽、月、星、風、波、地形、音、匂い、色、植物、動物など、あらゆる自然に表れたしるしを観察し、その意味を読み取り、目的地に向かって進むべき方向を見つけるスキルを「ナチュラル・ナビゲーション」と言う。昔の人々が優れていたこのナチュラル・ナビゲーションのスキルを体感するのにうってつけなのが、自然にのこされた動物の痕跡、「フィールド・サイン」を探す山歩きだ。東京都でありながら植生が豊かな山と渓谷をもつ奥多摩で、実際にフィールド・サインを探して歩き、解説してもらった。

ヒトにも地磁気を感じる第6感があった!?
 無脊椎動物から脊椎動物にいたるほとんどの動物が、地球の微弱な地磁気を読み取り、移動のナビゲーションに利用していることをご存知だろうか?地磁気を感知する仕組みこそ諸説ありまだ解明しきれていないものの、ヒト以外のほとんどと言っていい動物にあてはまる。ヒトに関しても、これまで多くの検証実験がされてきたが、ヒトは磁気を感じることはできないというのが定説だった。ところが2019年にカリフォルニア工科大学を中心とした国際共同研究で、多くのヒトが地磁気に対する感受性を潜在意識下で有しているという実験結果が発表され話題となった。広島大学の眞溪歩教授によれば、これまでの研究では地磁気に対して特別に反応する脳波を探して失敗してきたが、今回の研究では、視覚や聴覚に刺激を受けたときにアルファ波の振幅が低下する事象関連脱同期に注目し、地磁気と近しい磁気刺激を受けた時にもアルファ波の振幅が低下することが確認されたと言う。間接的ではあるが、地磁気を捉える感受性をヒトはもっており、なんらかの理由でそれを顕在意識化できないことが示されたのだ。それは祖先から引き継いできたが退化した、第6感のようなものかもしれない。

徹底再現!3万年前の航海
 自然物を手掛かりに目的地を目指すナチュラル・ナビゲーションの人類史的なイベントは、30万年〜10万年前にアフリカから世界拡散した私たちの祖先、ホモ・サピエンスの大移動だろう。東京大学の海部陽介教授は最初の日本列島人がどこから、どうやって日本に来たのかを知ろうと、当時所属していた国立科学博物館のプロジェクトで、3万年前のホモ・サピエンスの航海の再現実験を試みた。台湾から琉球諸島への渡海ルートを仮定し、海洋冒険家らと組んで、手漕ぎの丸木舟で黒潮を越えようというのだ。3万年前の再現航海であるため、GPSも地図もコンパスも持たず、伴走船からの情報も無しで目視できない200km以上先の与那国島を目指した。日中に方角を判定する目標物がない海上でどうやって進む道を見つけるのか?悪天候で星が見えない夜はどうすれば道に迷わないのか?古代航海術を駆使し、実際に自分たちが体験することで、祖先たちの旅が決して無謀な賭けではなく、ナチュラル・ナビゲーションを駆使した計画的な挑戦であったことを知る。


主な取材先
東京大学総合研究博物館 海部 陽介さん
広島大学 脳・こころ・感性科学研究センター 眞渓 歩さん
海上保安庁 海洋情報部 山田 裕一さん
奥多摩ビジターセンター 林 慶二郎さん

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