ガリレオX

アイドルとは何か? さようならすべての先入観

BSフジ
本放送:06月13日(日)昼11:30~12:00
再放送:06月20日(日)昼11:30~12:00

 アイドルとは、ある定義によれば「存在そのものの魅力で活躍する人物」である。語源的には「偶像」であり、現在は「あこがれの存在」で、「熱狂的なファンをもつ人」がアイドルとされる。この番組では女性アイドルに絞るが、日本の女性アイドルシーンには独特なカルチャーが形成されている。テレビや雑誌などメディアで活躍するメジャーアイドルから、各地のライブハウスでのライブと交流イベントが主のライブアイドル(地下アイドル)まで、様々な形態のアイドルがいるのだ。そしてアイドルは一般的に「どうせアイドルでしょ?」と低くみられる傾向が強いが、実は歌、ダンス、時に演技、お笑いといった幅広い技能を瞬時に発揮するという、見えにくい専門性をもっている。また、男性中心社会の中から生まれた歴史から、アイドルにはその若さや恋愛についての強いプレッシャーがついてまわる。日本の歴史の中でアイドル的な存在はいつどのような形で現われたのか?アイドルとファンとの関係性はどのようなものか?社会学やメディア論、美術史、文化評論、ジェンダー研究など、異なる分野から語られる「アイドル」に関する複数の考察を紹介する。

アイドルカルチャーが根付く日本
 アイドルとは何か?を人に問いかけたときに難しい問題なのは、どの時代のどのカテゴリのアイドルを、誰が語るのかによっても、「アイドル」という言葉が指す人物やイメージが、ぜんぜん違ってくるということだ。また、アイドルとは歌とダンスがセットになったパフォーマンスでありながら、音楽ジャンルとして単純に括れるものでもない。それは逆に、アイドルには自由に、あらゆる音楽を託することができるということだ。実際にライブアイドルの現場に行き、訪れたファンや、ライブアイドル自身に話を聞いた。

現代アイドルの出現とその変遷
 実はアイドルという言葉が初めて日本に登場した1960年代は、アイドルとは海外の映画俳優やミュージシャンのことを指していた。それが、1970年代にテレビ番組の「スター誕生!」から「アイドル」がデビューするようになると、アイドルとは低年齢の美少女のことを指すように変化したという。相模女子大学専任講師の塚田修一さんに、つづく1980年代、1990年代、そして2000年代のアイドルの特徴について話を聞いた。さらに、成蹊大学教授の西兼志さんには、アイドルとはどのようなメディアの中で生きている存在なのかを尋ねた。

江戸時代にもアイドル?大衆から注目される芸能者
 江戸時代の特徴のひとつに、芸能が権力者のものから、大衆のものへと変化したことがある。江戸の様々な階層の人々の営みを描いた「近世職人尽絵詞」には、神社の舞台で舞う若い巫女の姿と、それをまるでアイドルを見るかのように見上げうっとりしながら楽しむ庶民の姿が描かれている。慶應義塾大学教授の内藤正人さんに話を聞くと、アイドル的な存在の祖型は、平安時代の男装の芸能者、白拍子にまでさかのぼることができ、聖なるものと俗なるものの両面をもつことが意義深いという。そして、白拍子の巫女舞の流れから創作されたのが江戸時代に大ヒットした娯楽である歌舞伎だ。なかでも、遊郭の遊女たちによる遊女歌舞伎はアイドル的な人気となり、その姿は浮世絵として描かれ、それはアイドルのブロマイドのように広く買われ、楽しまれたという。

無償の愛は無償のままでいいのか?
 ライブアイドルの特徴は、観客と演者との一体感にある。ファンは、コール(掛け声)や振りコピ(アイドルの振り付けの真似)といったライブへの参加をし、アイドルはファンに「レス」と呼ばれる視線を送ったり、笑顔を送ることでそれに応える。その応酬の結果、「現場」と呼ばれるライブ会場と交流イベントにはある種の祝祭性が生まれるという。東京女子大学准教授の竹田恵子さんは、社会文化的に求められる男らしさ、女らしさの問題を考えるジェンダー研究の視点から、ライブアイドルを研究している。竹田さんは、アイドル活動を「労働」として考えると、アイドルはファンに向けて親愛の感情を表し続ける「感情労働」に勤しんでいることになると言う。そしてアイドル活動は、家事や育児、介護など、女性が主に担ってきた「ケア労働」に似た特徴も持っているため、「労働」としてはあまり評価されず、低い報酬に繋がっていると話す。問題の本質は、愛は無償であって欲しいという願望にある。ファンは、アイドルからの優しい言葉や態度が、サービスやテクニックではなく、無償の愛であって欲しいと期待するが、アイドルの側は、広い意味での愛を捧げることと、その対価として報酬を要求する事との間でジレンマに陥るのだ。

アイドルのパーソナリティ消費と恋愛禁止のゆくえ
 2020年代のアイドルの特徴は、アイドル個人の持ち味、つまり「その人らしさ」や「人柄」といったパーソナリティがエンターテイメントの中心になっている点だ。パーソナリティが発揮されるのはファンとの共有空間である「現場」が主だが、SNSが普及した今のアイドルは、ライブ以外でも絶えずSNSを更新し、パーソナリティを発信することが求められている。JAPANARISMというアイドルグループを卒業した元アイドルの天乃七夕さんにアイドルとSNSについて話を聞いた。一方、ファンは偶像としてのアイドルを求めてきた歴史があり、アイドルの人格にあたるパーソナリティの尊厳について、あまり見ないふりをしてきた部分がある。そのひとつが「アイドルの恋愛禁止」の風潮だ。アイドルとその文化に詳しいライターの香月孝史さんは、恋愛のような個人の自己決定について、社会やメディアの側が、暗黙のプレッシャーをかけ続けてきた問題を指摘し、変化が起こりつつある現状を語る。アイドルという言葉がまとう様々な先入観が取り去られていった先に、本当のアイドルの姿が現われる。


主な取材先
香月孝史さん(ライター・文化評論)
竹田恵子さん(東京女子大学)
塚田修一さん(相模女子大学)
内藤正人さん(慶応義塾大学)
西兼志さん(成蹊大学)
天乃七夕さん(元JAPANARIZM)
IDOLidge-アイドリッジ-
15GERM

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