価格の高騰 海産物への危機
「このままじゃまずい状況」。ある海産物の価格が突如高騰し、そんな嘆きが聞こえてきた。
2021年12月、年の瀬で賑わう上野アメヤ横丁の鮮魚屋では、秋鮭やイクラの価格が例年の3割以上値上がりしていた。さらに築地場外市場に店舗を構える海鮮丼屋では、北海道のウニの仕入れ価格が例年の2.5倍にも膨れ上がったという。
一体なぜ秋鮭やウニの価格が高騰したのか?その原因は2021年秋に北海道の海で起きたある異変だった。
北海道で起こった史上最大規模の海洋災害
2021年秋、北海道東部の太平洋沿岸を史上最大規模の赤潮が襲った。赤潮と聞いてもその被害をイメージできないかもしれないが、今回の赤潮による被害総額は約170億円に上るとも予測されている。赤潮の発生によって鮭やウニだけでなく、ツブ貝やナマコ、そしてタコといった海洋生物が甚大な被害を受けた。
なぜこの赤潮が発生し、多くの生物へ被害をもたらしたのか?函館市にある北海道大学水産学部では、今様々な研究者たちが協力する事で、赤潮の原因やそのメカニズムが探られていた。
北海道の赤潮の謎
赤潮は海中の植物プランクトンが増殖する現象だ。プランクトンの研究を行なう北海道大学の山口さんは、今回北海道で起こった赤潮のメカニズムを探っていた。
山口さんは一般的に赤潮が被害をもたらす原因は、毒素を作り出す有害なプランクトンが存在するためであるという。有害プランクトンの毒素によって、他の生物が死滅してしまうのだ。このように赤潮の仕組みは明らかになっているのだが、今回の北海道の赤潮には、これまでの常識では説明できない3つの謎があるのだという。
1つ目の謎:なぜ北海道で大規模な赤潮は起きたのか?
1つ目の謎はこれまで大規模な赤潮が発生した事例のない寒冷域の北海道の海で、突如として赤潮が発生したことだ。北海道には4つの海域が流れており、今回の赤潮が発生したエリアは唯一冷たい水が流れる海域だった。
この謎を解き明かすための重要なヒントをもたらしたのが、北海道大学の練習船うしお丸による赤潮海域の観測調査だった。観測によって得られた赤潮のサンプルによって今回の赤潮の発生メカニズムが見えてきたのだ。
2つ目の謎:プランクトンの持つ毒性とは?
2つ目の謎は大量の秋鮭などの魚を死滅させた毒素の謎だ。
赤潮の原因となる有害プランクトンがどんな毒成分を作り出しているのかを探る必要があるのだ。
毒成分の分析を進める北海道大学の藤田さんは、今回被害をもたらした毒成分は、フグの持っている呼吸や心臓麻痺を引き起こすような神経系の毒に近いのではないかと推測していた。そしてこの神経系の毒は、様々な生物の体内に蓄積する事で、人間への被害をもたらす可能性もあるという。
被害をもたらした毒成分を特定するための分析研究を追った。
3つ目の謎:なぜ海底に住む生物に被害が出たのか?
3つ目の謎は、ウニなどの海底に暮らす生物へ被害が拡大した原因だ。ウニの他にもツブ貝やナマコ、そして二枚貝などへの被害が報告されている。今までこれほどの広範囲に被害が拡大した赤潮の事例はない。北海道に生息するツブ貝やヤドカリなどの生態を研究する北海道大学の和田さんは、今回の被害の状況には不可解な点が多いと語った。
特に和田さんが疑問に感じたのは白骨化したウニの死骸だった。白骨化にはある程度の時間を要するため、それが赤潮に起因しているかを判断するのが難しいという。
これまで前例がない赤潮による広範囲の生物への被害の実態を探った。
◯さらに詳しく知ることができる情報サイトのご案内
北海道大学のオンライン教材サイト内で今回の北海道で起こった赤潮の特設情報サイトが近日公開予定です。
今回の赤潮に関連した各研究分野のより詳しい情報を知る事ができます。
コンテンツは随時追加中で、植物プランクトンなどに関連するコンテンツなども含まれています。
以下のURLで閲覧可能です。
https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/course/view.php?id=1141
さらにweb検索にて
<LASBOS Moodleを検索>上部ボタン「道東の赤潮」でも閲覧可能です>
主な取材先
山口 篤さん (北海道大学)
飯田 高大さん (北海道大学)
松野 孝平さん (北海道大学)
藤田 雅紀さん (北海道大学)
和田 哲さん (北海道大学)