麻酔の謎 全身麻酔はなぜ効くのか?
世界では1日におよそ10万人もの人が全身麻酔を受けている。効かない人は誰1人としていない。だがなぜ全身麻酔で意識が消失するのか、そのメカニズムは実は解明されていない。仕組みがわからないものに命を預けている、そんな状況にある。麻酔科学を専門とする富山大学の廣田弘毅准教授によると、全身麻酔が効くメカニズムについて、これまでいくつもの仮説が唱えられてきたが、その多くが覆ってしまう結果の連続だったという。とはいえ、分子まで見える電子顕微鏡の登場によって、その解明はかなり進んだが、そもそも「意識の働きのメカニズム」が明らかにならないと、その先の研究へは進めないのだという。
意識の謎 私たちの意識はどのようにして生まれるのか?
人間の意識の研究について、心理学や脳科学、それこそ哲学では2000年以上前から取り組まれてきた。どんな体験をし、どんな刺激を受けると脳のどの部位がどんな反応をするのか、その結果どんな作用が起こるのか、そういった「意識のイージー・プロブレム」は科学的に解き明かされてきた。だがそれとは別の、「赤信号の赤」を「赤い」と感じるクオリアの主観的な意識体験は、原理的に解明不可能とまで言われる「意識のハード・プロブレム」として問題になっている。主観的体験について、客観的な観察も再現実験もできないからだ。筑波大学の鈴木大地助教は、そんな意識の問題について生物学的なアプローチを試みている。特に、動物意識の誕生を調べることで、ヒトにも共通する意識発生のメカニズムが明らかになるのではないかというのだ。
宇宙の謎 ブラックホールの中はどうなっているのか?
2019年に世界で初めて「ブラックホールの影」が撮影された。私たちはその姿を初めて目にしたことになる。しかし、ブラックホールの影を撮影することには成功しても、ブラックホールの中の構造や、さらに奥の構造など、次から次へとわからないことが出てくる。素粒子物理学を専門とする京都大学の橋本幸士教授は、答えのコレクションが科学なのではなく、わからないことを探求し続けてきたのが科学だという。実際に100年前にアインシュタインが打ち立てた一般相対性理論はブラックホールも、重力波も予言していたが、これまではそれを確かめる科学的な手段がなかった。観測技術の向上によって近年あいついでその観測に成功し、そしてまた新しい謎が現れている。
科学において“ワカル”とは何か?
科学とは、調べようがあることについてはより確からしい答えをだせるものの、調べようがないことについてはわからない。そう定義するのは、京都大学で科学哲学を専門とする伊勢田哲治准教授だ。しかし同じ科学であっても、物理学と生物学とでは、調べたいことと研究手段との間に距離の違いがあり、そのわかり方にも違いがあるという。また、意識のハード・プロブレムについては、原理的に解けない問題だという。なぜなら、三人称的な記述が可能な意識のイージー・プロブレムから、一人称でしか語れない意識のハード・プロブレムつまり内面世界へと、どのように因果の矢を通したらよいのかわからないからだという。
主な取材先
廣田 弘毅さん(富山大学)
鈴木 大地さん(筑波大学)
橋本 幸士さん(京都大学大学院)
伊勢田 哲治さん(京都大学)