利用の場を広げるマグネシウム
JR東日本は、新しい新幹線を開発するため、ALFA-X(アルファエックス)と名付けられた試験車両を使い、様々な試験を行っている。このALFA-Xに、現在、新幹線の性能をさらに向上させる試験のために、新しく開発された画期的な材料で作られたパーツが搭載されているという。その材料とは“マグネシウム合金”だ。
軽い金属マグネシウム
マグネシウム合金の主成分は“マグネシウム”。このマグネシウムは、鉄やアルミニウムよりも軽い金属だ。既にノートパソコンのケースなど軽さが求められる金属部品としてマグネシウムは広く使われているが、新幹線の車体の材料としては使われてこなかった。なぜ新幹線に使われてこなかったのか?その理由は大きく二つあった。
新幹線に使えるマグネシウム“難燃性マグネシウム合金”
マグネシウムを新幹線の材料にも使えるようにするプロジェクトが始まった。
マグネシウムが使えなかった一つ目の理由は、マグネシウムの特徴にあった。それは「マグネシウムは一度火が付くと激しく燃える」という特徴だ。この特徴を払拭しなければ安全性が求められる新幹線の材料として使うことは絶対にできない。プロジェクトでは“難燃性”を持たせたマグネシウム合金の開発が必須だった。産業技術総合研究所の千野靖正さんは、マグネシウムを新幹線の材料として使うために、“難燃性”と“高い強度”と“しなやかに延びる延性”を併せ持った、新しい“難燃性マグネシウム合金”の開発に取り組んだ。
難燃性マグネシウム合金で構造物を作る
ついに完成した“難燃性マグネシウム合金”。プロジェクトの次の段階では“難燃性マグネシウム合金で大きな構造物を作る技術の開発”が行われた。この“大きな構造物を作る技術”がなかったことが、これまで新幹線の材料としてマグネシウムが使われてこなかった理由の二つ目だったのだ。
新たに開発された材料“難燃性マグネシウム合金”を複雑な形状に加工する技術や、つなぎ合わせる溶接技術など、多くの技術の開発が進められた。
マグネシウムの新たな生産方法
マグネシウムを新幹線の材料にする取り組みが進む一方、マグネシウムを新しい方法で生産しようという研究も進められていた。
関西大学 化学生命工学部の竹中俊英 教授は、現在、主に用いられているマグネシウムの生産方法には欠点があるという。その欠点とは、原料からマグネシウムを作る過程で必然的に二酸化炭素の排出量が多くなってしまうこと。
そこで、マグネシウムを現在とは異なる“新しい原料”から生産する方法の研究が進められていた。その方法で使う原料は、日本にも豊富にある意外なものだった。
マグネシウムの利用の可能性
マグネシウムが二酸化炭素の排出量を少なく生産できるようになったら、今後、どのような利用の可能性があるのだろうか。その一つとして、マグネシウムを燃料として使い発電するマグネシウム空気電池を使った研究が進んでいる。玉川大学 工学部の斉藤純 准教授はマグネシウムが電気エネルギーを貯蔵・運搬できるように変換する“エネルギーキャリア”になることを期待し、マグネシウムの可能性を調べている。研究では、マグネシウムで発電したエネルギーで走行する車両を使った実験が行われていた。
主な取材先
千野 靖正さん(産業技術総合研究所)
竹中 俊英さん(関西大学)
斉藤 純さん(玉川大学)
JR東日本
三協立山