宗教と科学のはざまに生まれた「亜宗教」
造語である「亜宗教」は、昭和女子大学 非常勤講師で、宗教研究者の中村圭志さんが作った言葉で、降霊術、UFO、千里眼、反進化論、陰謀論など、広い意味での「オカルト」に類するものたちを指す。洋の東西を問わず、約300年ほど前までは、「宗教」が人々の生活規範を定めていた。人としての生き方や、死後の世界、正しいことや、間違っていることなど、すべて宗教が決めていたため、自らそれらを探求することはなかった。 しかし、約200年前の19世紀から、合理的な価値観である「科学」が急速に発展したことで、伝統宗教の影響力が激減することになる。急に人生のガイドラインを失い、本質的に合理的とは言えない人間の心に生じたのが、宗教と科学が混じりあった奇妙な信念「亜宗教」だと言う。
動物磁気から心霊主義、そして心理学へ
18世紀後半にヨーロッパで流行していた奇妙な社交パーティーに「動物磁気による集団治療」というものがあった。科学の世界では電磁誘導や電信機など、目に見えない力が続々と発見され社会実装がされていく中で、メスメルというドイツ人医師に提唱された「動物磁気説」によるものだ。その仮説は「人間や動物の中には、磁気に似た目に見えない流体が流れている」というもので、動物磁気の不均衡によって病気になるという考えから、患者に磁気を送り込んで治すのだと言う。今日の視点からは荒唐無稽に見えるが、動物磁気の考え方は、人間の心や精神世界への興味の深化へと繋がり、催眠療法などを経て、現代の心理学へと発展していくこととなる。
種の起源 vs 創世記
宗教から科学へと知識や価値観の大転換が進むと、大きな反発も生まれた。そのひとつが、1859年に「種の起源」を発表したダーウィンの生物進化論への反発だ。反進化論者たちの多くは、アメリカのプロテスタントの一派のキリスト教根本主義者、いわゆるファンダメンタリストで、進化論は誤りであり、天地創造や宇宙の年齢は聖書の記述どおりであるという主張を持っている。中村圭志さんによれば、進化生物学の第一人者であるリチャード・ドーキンスが、反進化論への的確な反論をおこなっているということで、その話を聞いた。
亜宗教としての陰謀論
今、もっとも耳にする亜宗教は陰謀論かもしれない。中村圭志さんによれば、いつの時代にも新聞は「これからは陰謀論の時代だ」と書きたて煽ったと言うが、現代の陰謀論は近現代の落とし子としての性格が強い。その生みの親は、20世紀後半に流行したポストモダン思想の軸である「相対主義」で、現代につながる多文化尊重のきっかけとなった文化相対主義などは歴史的役割を果たしたが、特別に極端な相対主義は大きな悪影響を残したのだと言う。それは、科学的な検証を加えた「客観的事実」すらも相対化してしまい、疑似科学やオカルトと同列に並べてしまったことだ。さらに詳しく話を聞いた。
主な取材先
中村圭志さん(昭和女子大学)