OECDが警鐘を鳴らす神経神話
2007年、OECD(経済協力開発機構)は教育に関連する脳科学の知見をまとめた「脳からみた学習」を出版。その中の一章に「神経神話」の払拭という内容が盛り込まれ、「人間は脳の10%しか使っていない」「男女の脳には違いがある」などの俗説の検証が行われた。この報告書の作成に関わった日立製作所の小泉英明フェローは、「脳ブームにより根拠のないあやふやな情報が世界中に流布されている」と指摘する。
脳ブームはなぜ起こったのか?
1995年に出版された「脳内革命」。400万部を超える大ベストセラーとなったこの書籍は、現在にまで続く脳ブームのさきがけと言われている。脳という文字がタイトルに入る本は、2006年のピーク時には年間780冊に達し、現在も増え続けている。脳に関する膨大な本を読破したジャーナリストの森健さんは、その多くが「およそ脳科学とは関係のないような事を脳に結びつけている」と分析する。
現代最強の神経神話「脳の活性化」
「脳を鍛える」「脳に効く」などをキャッチフレーズに販売される、脳の働きを向上させるとされる商品。創造力や記憶力の高まりを謳い、その科学的根拠として「脳の活性化」が持ち出される。これに対し、お茶の水大学の榊原洋一教授は「脳が知的に向上することを証明したデータは全くない」と断じる。「脳の活性化」神話は、なぜこれほどまでに広がってしまったのか?
現代の神経神話を支える脳の画像
現代の脳科学を大きく進歩させた、fMRIなどの脳の活動を見る装置。その装置から得られる画像は、私たちにも一目でわかる形で、「脳の活性化」を示す力を持っている。しかし、これらの画像は「データの処理の仕方によって全く違った画像になる」と東京大学の坂井克之教授は指摘し、一人歩きする活性化という言葉に警鐘を鳴らす。
社会に求められる脳科学
現代に巻き起こる脳ブームと共に、社会に広がっていく様々な神経神話。東京大学の佐倉統教授は、その背景に「科学的に何か言って欲しいというニーズが常にある。」と分析する。私たちはなぜ神経神話を信じてしまうのか?
主な取材先
小泉英明さん(日立製作所フェロー)
榊原洋一さん(お茶の水大学教授)
坂井克之さん(東京大学准教授)
佐倉統さん(東京大学教授)
森健さん(ジャーナリスト)