「座る」とは?
私たちは普段何気なく「座る」という行為を繰り返している。そもそも「座る」とは停留という一つの状態を取っているときの形とされ、ヒト以外の動物でも休息姿勢や停留の姿勢をとるときには「腰をかける」といった姿勢をとる。しかし、「椅子」という道具を作り出し、それを使っているのは人間だけ。その意味で「椅子に座る」という行為は、人間独特の姿勢であると言える。
椅子の歴史
椅子の歴史は長い。古代エジプト時代の壁画には椅子が描かれ、豪華な装飾が施されていたと思われるものも遺跡から発見されており、それらは高貴な人々や権力の象徴として用いられてきたと考えられる。現在のように一般家庭に椅子が用いられるようになるのは、18世紀の産業革命以降であった。日本での本格的普及は、明治維新の頃で、家庭レベルとなると戦後の集合住宅の普及以降であった。高度経済成長期を迎えた日本のオフィスにおいては、それまでの木製椅子がスチール製へと変容し、それがオフィスチェアとして定着していく。続いて、パソコンの登場による労働環境の変化が椅子の機能をさらに変化させるなど、その時々の社会の時代状況や労働環境の変化によって椅子は様々な変貌をみせる。
座位がもたらすヒトへの影響
普段私たちは疲れを感じたときに、無意識的に腰をかけたり、座る場所を探している。こういったことから「座る」意味を単純な疲労回復のための行為と考えがちだ。確かに、座っているときには体の下半身や背中の筋肉を使わなくてもいいことから、筋活動の観点からは休息姿勢をとっていると言える。しかし、骨格的には腰椎や椎間板に負荷がかかっているため、実は上半身に負荷をかけている状態なのだ。この座ることでもたらされる上半身への負荷をどのようにして軽減していくことができるかが、椅子や座ることについての人間工学的な研究の方向性の一つである。その成果をいかしつつ、現在色々な機能を備えた椅子はもちろんのこと、オフィス空間の設計においても様々な試みがなされている。製品開発された驚きの最新機能をもつ椅子や、全く新しいオフィス環境のデザインに迫る。
主な取材先
岡村製作所
・浅田晴之さん(オフィス研究所)
・髙橋卓也さん(オフィス製品部)
・神山里毅さん(プロジェクトデザイン部)
渡辺秀俊さん(文化学園大学)