薄片と呼ばれる地質試料
岩石を詳しく見てみると、非常に小さな鉱物の粒で構成されていることがわかる。では地質学者たちはどのような方法で、この細かな構造を観察・分析しているのだろうか?
一般的な方法は、岩石片を極限まで薄くするという方法だ。わずか30ミクロンにまで薄くする事で岩石が透明になり顕微鏡を使って肉眼で観察することができる。その岩石の薄い板が薄片と呼ばれる地質試料なのだ。
研究を支える薄片技術者
薄片が誕生したのは今から180年以上前。それ以来、地質研究に不可欠な存在として現在でも利用されている。研究現場では薄片を作り出す、いわば職人ともいえる技術者たちが活躍している。
薄片づくりの本質は“磨く技術”。切断された岩石を30ミクロンの薄さにまで研磨を繰り返すことで薄片は作り出される。科学的な分析のためには、誤差のない平らな表面に仕上げることも重要だ。そのため技術者たちは、岩石の表面をまるで鏡のように磨く。
薄片の新技術
現在の地質研究では希少な岩石を対象とする解析が求められている。そのため、これまで薄片化が非常に難しいとされたサンプルも研究対象となりつつある。
太平洋の深海底に分布するマンガンクラストと呼ばれる岩石。マンガン資源としても注目されるこの岩石は水分を大量に含み、壊れやすく薄片にはできないと考えられてきた岩石だった。
そんな状況の中、技術者たちはマンガンクラストの薄片づくりを実現するために新たな薄片作製技術に挑んだ。果たしてその新技術とは?
薄片の可能性
今から180年以上前に誕生した薄片の技術。誕生から変わることなく続けられてきたその作製法を、技術者たちが今、新たな技術として塗り替えようとしている。
たとえば、固体の薄片ではなく、柔軟な細胞組織などの薄片で、特に注目されつつあるのが生体組織や生体材料の分析を行なう医療分野だ。それらを薄片にすることで、これまで見ることができなかった神経などの微細な構造を明らかにすることができる。
今後、新たな薄片からは何を読み解くことができるのか?
主な取材先
産業技術総合研究所 地質情報基盤センター
産業技術総合研究所 地質標本館
産業技術総合研究所 地圏資源環境研究部門
高知大学 海洋コア総合研究センター