光がなくても水素があれば生命が存在する!?
無人探査機カッシーニが土星の衛星「エンケラドゥス」を調査した結果、この衛星に生命が存在する可能性が示された。エンケラドゥスは表面を氷に覆われた星であり、その氷の隙間から水素を含んだ水蒸気が噴き出していることが分かったのだ。水素があれば光が届かない場所でも生命が存在できるという。
なぜ、そのようなことが言えるのか? それは身近な例が地球にあるからだ。それは水深2000mよりも深い海の底で、時に400℃を超える、熱水を噴き出す「熱水噴出孔」が立ち並ぶ熱水活動域と呼ばれる場所だった。
地球の生命は熱水噴出孔で誕生した!?
砂漠のオアシスのように、多種多様な生物が生息している深海熱水活動域。なぜ深海のそこにだけ生物が存在するのか?
実はそれらの生物は熱水噴出孔から噴き出す熱水に含まれている、地球の内部エネルギーを利用して生きている生物たちだった。そして、その中に熱水に含まれる硫化水素と二酸化炭素からメタンを作り、エネルギー源としている微生物「超好熱メタン菌」が発見された。
この超好熱メタン菌のように水素をエネルギーとして利用することは、地球初期の生命の特徴であり、「ハイパースライム」と名付けられた超好熱メタン菌を一次生産者とする生態系こそが地球最古の生態系の生き残りではないかという。
40億年前の地球の地殻はどうなっていた?
超好熱メタン菌から始まる生態系「ハイパースライム」は、地球に500カ所以上存在が確認されている熱水活動域すべてにいるわけではなく、限られた熱水活動域にしか存在していないことが分かった。
その理由は熱水の中の水素の濃度が関係していた。ハイパースライムが存在するためには、高濃度の水素が必要なのだ。
そのため、地球内部の上部マントルが固まってできた「超マフィック岩」が熱水活動域の周囲にないとハイパースライムが存在できないという。超マフィック岩である かんらん岩 が熱水と反応して高濃度の水素が発生するからだ
しかし、40億年前の地球には現代のような超マフィック岩は存在していない。ではどのように生命は誕生したのか? 生命が誕生した時の海底の様子を再現する実験が行われていた。
深海で発電していた!
深海の熱水活動域に発電発電現象が起きているという研究成果が発表された。
海底から噴き出し続ける熱水と、熱水噴出孔、そして海水がまるで電池のような関係となり、微弱ながらも常に電気が発生しているという。
生命が誕生するには、エネルギーが必要となる。この深海熱水活動域の発電現象が、生命誕生の鍵となるかもしれないという。
主な取材先
高井 研さん (海洋研究開発機構)
渋谷 岳造さん (海洋研究開発機構)
山本 正浩さん (海洋研究開発機構)
小林 憲正さん (横浜国立大学大学院工学研究院)