ガリレオX

お酒と人類  進化のハッピーアワーとビール・ワインの起源

BSフジ
本放送:07月23日(日)昼11:30~12:00
再放送:07月30日(日)昼11:30~12:00

人類はいつお酒に出会い、さらにその造り方を発見して、親しむようになったのか? お酒づくりの証拠、具体的にはワインとビールの起源についての考古学研究が進み、世界最古のビール醸造所跡がエジプトで見つかった。また、お酒が社会に与えた歴史的役割が見直されている。遺跡に残された有機物の、植物考古学的な分析も注目されている。一方、アルコール分解能力はある時、遺伝子の突然変異によってヒトの祖先にもたらされ、生き延びるのに有利に働いたという推論もある。例えばヒトの祖先が樹の上から降りたことにも、定住と農耕を始めたことにも、社会を階層化したことにもお酒が関与している可能性が高いというのだ。長年、お酒を飲むのはヒトだけとされてきたが、ヤシ酒を飲む野生のチンパンジーも確認された。 お酒を飲むことの進化的な起源と、文明史的な意義を探る。  

世界最古のお酒づくり
人類が初めて出会ったお酒は自然に発酵してできることもある蜂蜜酒などが有力視されているが、検証のすべはない。では、人の手によって造られた一番古いお酒はなにか?
ビールよりもワインの方が歴史が古く、いまから8000年前に南コーカサスで誕生したことが、発掘されたブドウの種やワイン壺の存在から有力となっている。さらに、ブドウに多く含まれる酒石酸という有機物や、ワインの存在の証拠となる酒石酸塩の発見が考古学的な推論を補強していく。

植物考古学からみた古代のお酒
お酒の存在を裏付ける大きな証拠のひとつに「植物遺存体」がある。偶然、火で燃えるなどして炭化した為に、形が壊れずに発掘された言わば植物の化石だ。そしてそこに含まれるDNA分析なども含めて、今後の研究が期待されている学問分野が、植物考古学だ。加熱する工程のないワインに比べ、火を使う工程のあるビールのほうが、植物遺存体が残りやすいと言う。

世界最古のビール工房跡
エジプト南部のヒエラコンポリス遺跡は、古代エジプト文明の発祥の地とされる場所だ。ここで2003年に、世界最古のビール醸造施設跡が発見された。ビール工房だと推定される理由は、糖化させて麦汁を作り出すためと思われる加熱施設が見つかったことと、5つの大甕の内側の残滓から、大麦や古代小麦が見つかったためだ。
さらに電子顕微鏡観察により、酵母がでんぷん粒を食べた発酵の痕跡も認められた。しかし、5つの大甕で合計300リットルものビールをいったいなんのために作ったのか、謎も残る。

古代エジプトビールの再現
1981年から2003年にかけて、古代エジプトビールの忠実な再現プロジェクトが進められた。当時の壁画を詳しく解析し、試行錯誤の末にレシピを読み解き、使用する調理器具や土器、窯に至るまで徹底して模試、2種類の古代エジプトビールが造られた。そしてその味は・・・。

お酒を飲む野生のチンパンジー
長年、ヒト以外でお酒を飲む動物はいないとされてきた。ところが近年、その常識を覆す、お酒を飲む野生のチンパンジーの一群が西アフリカのギニアで見つかった。
13頭ものチンパンジーが、人間がヤシの樹液を集めて作っているヤシ酒を、自発的に、そして習慣的に盗み飲みにくるのだ。お酒を飲む野生チンパンジーの存在が示唆するのは、ヒトがお酒を飲むことの進化的な起源と、文明史的な意義だ。なんとヒトやチンパンジーは、1000万年前の遺伝子変異により突如、高いアルコール分解能力を身につけ、完熟して糖分とともにアルコールを含んだ果実などを、優位性をもって摂取することができるようになり、生存競争に打ち勝ってきたと言うのだ。


主な取材先
松沢 哲郎さん (京都大学 高等研究院)
馬場 匡浩さん (早稲田大学 高等研究所)
赤司 千恵さん (東京大学総合研究博物館)
小泉 龍人さん (東京大学東洋文化研究所)
黒川 さつきさん (キリン)

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