超高感度嗅覚センサー・MSSが登場した
これまで実用化が難しいと思われていた、ニオイを識別することができる画期的な嗅覚センサーが、物質・材料研究機構の吉川元起さんらによって開発された。
ニオイの成分は自然界に40万種類以上あると言われ、人間が「コーヒーのニオイ」と認識する時でさえ、約500種類のニオイ分子が混ざり合っている。
その複雑なニオイを嗅ぎ分けることができるセンサー、通称MSSは超高感度でありながらも大きさわずか1mmにも満たないと言う。
ニオイからアルコール度数判定に成功
嗅覚センサーMSSの実用化に向けた課題の一つが、検出された複雑なニオイの情報から特定の情報だけを取り出す解析技術の開発である。そうした研究の一つとして、お酒のニオイからアルコール度数を導くという実験が行われた。その結果、データの解析に機械学習の手法を用いることで、ニオイからほぼ正確にアルコール度数を推定することに成功。MSSによるニオイ計測から目的に合った情報を取り出せる可能性が示された。
MSSで果物の食べごろを判定
弘前大学では果物のラ・フランスを使った実験が行われていた。
ラ・フランスをおいしく食べるためには、収穫した後、追熟と呼ばれる期間が必要だが、食べごろに熟しても見た目が変わらないため、食べごろの時期を簡単に知るのは難しい。
そこでMSSを使ってニオイを測定し、そのニオイとラ・フランスの硬さの相関関係を探るという研究が進められた。膨大なデータを異種混合学習という機械学習の方法で解析した結果、ニオイと硬さの間にある相関性を導くことに成功。これにより、ニオイから食べごろの硬さを推定することが可能になった。この研究結果は、今後、様々な農産物や畜産物に応用できる可能性があると言う。
呼気から食習慣を推定
MSSは果物の状態を知ることができるだけでなく、人間の状態も知ることができる。
ファンケル総合研究所では、人間の呼気をMSSで測定し、その結果に異種混合学習を用いることで、被験者の食習慣をモニタリングする実験が行われた。その結果、呼気からある特定の食品の摂食状況をほぼ正確に推定できることが確かめられた。
また、MSSをより簡便な方法で使えるようにする研究も進んでいる。近い将来、いわゆるウェアラブルデバイスにこのMSSを搭載し、自身の健康状態を手軽に測ることができるようになるかもしれないと言う。
主な取材先
吉川 元起さん (物質・材料研究機構)
柴 弘太さん (物質・材料研究機構)
今村 岳さん (物質・材料研究機構)
田村 亮さん (物質・材料研究機構)
雄長 誠さん (ファンケル総合研究所)
張 樹槐さん (弘前大学)
江藤 力さん (NEC)