植物由来の新素材
森林は日本の国土の約7割を占めるほど広大だが、実は今、国産の木材の需要は低く、森林資源が有効活用されていないという。
東京大学大学院の磯貝教授は木材のパルプから新素材「セルロースナノファイバー」を生み出すことに成功した。
セルロースナノファイバーは髪の毛の太さの1万分の1という超微細な繊維で、鋼鉄の5分の1の軽さながら、鋼鉄の5倍の強度を持つという画期的な素材だ。
ゴムとの複合材料を作る取り組み
セルロースナノファイバーの活用として考えられている用途の一つがほかの素材と組み合わせ複合材料とする方法だ。信州大学の野口特任教授はセルロースナノファイバーとゴムを混ぜることでゴムの強度を上げる研究を進めている。
今、ゴムの補強材として利用されているのは、石油を燃やして生成するカーボンブラックと呼ばれるススである。ゴムにカーボンブラックを混ぜると硬く強くすると柔軟性がなくなりもろくなるが、セルロースナノファイバーを混ぜた場合は硬く強くなり、かつ、しなやかな柔軟性を併せ持つという。野口さんはセルロースナノファイバーとゴムを混ぜる画期的な方法を開発。カーボンブラックの代替材料として利用できる可能性が見えてきた。
樹脂との複合材料を作る取り組み
セルロースナノファイバーを活用する別の取り組みがある。それは京都大学の矢野教授が進めるプラスチックとの複合材料の研究だ。
セルロースナノファイバーとプラスチックを混ぜることは難しい。それを効率よく混ぜ合わせるために、セルロースナノファイバーの元となる、木材パルプの段階で工夫を加え、プラスチックと混ざりやすくしたという。
矢野さんは、京都プロセスと名付けられたその方法を用いて、木材チップから樹脂複合材料の一貫製造プラントを完成させた。さらにそうして作られる樹脂複合材料を自動車の部材に利用するプロジェクトが進行していた。
透明な紙が拓く未来
セルロースナノファイバー1本1本はとても細い、そしてそれは光の波長よりも細いため透明になる。
そこで大阪大学の能木教授は、セルロースナノファイバーを使って“透明な紙”ができることに着目し、その特性を生かした材料開発に取り組んでいる。
透明な紙は熱を加えても伸び縮みせず、さらに表面が非常に平滑であるため、電子回路の基盤に使えるのではないかという。そしてその可能性は、例えば折りたためる太陽電池など、フレキシブル電子デバイスへの実現へと広がると言う。
今、植林された樹木が伐採時期を迎えている中、2017年にセルロースナノファイバーの量産設備が稼働を開始した、国産の森林資源を活用するこの新素材によって循環型社会の実現に期待が高まる。
主な取材先
磯貝 明さん (東京大学)
野口 徹さん (信州大学)
矢野 浩之さん (京都大学)
能木 雅也さん (大阪大学)