増える認知症患者数
認知症とは「脳内の神経細胞が死滅することで記憶力だけでなく、思考能力や行動能力までもが失われ、人格障害などを伴う症候群」のことで、例えば、加齢による物忘れ(脳の生理的な老化現象)とは異なり、脳神経の急激な破壊によって起こる。
超高齢社会の日本では、認知症患者数が2015年の時点で500万人を超え、団塊の世代が75歳を超える2025年には700万人になると予測される。そして世界では2015年ですでに4700万人、2050年には軽く一億人を超えるという信頼できる推測がある。
しかし、今現在、低下した認知機能を戻す薬は存在しない。
認知症の早期発見
認知症の原因の6割はアルツハイマー病だといわれている。そのアルツハイマー病は脳にアミロイドβペプチドという老廃物がだんだんと蓄積していくことで発症する。そのため、ある日突然病気になるのではなく、ジワジワと認知機能が低下するのが特徴だ。発症の10年~20年も前の40歳代から認知症のリスクは高まっていくが、全くの無症状であるため本人が自分で気づくことは難しい。だからこそ、もしこの臨床症状が無い早期にアルツハイマー病発症のリスクを知ることができれば、認知症の進行を遅らせ、日常生活を送るのに支障をきたす程ではない「MCI(軽度認知障害)」の状態にとどめることが可能となる。
超早期発見で認知症を予防する
これまでも認知症のリスクを知る方法はあったが、それは専門的な機関を受診しなければならなかった。筑波大学の内田和彦氏は、一般の医療機関でも手軽に検査できる方法として「血液」に着目した。そして血液をLC-MSという分析装置にかけてその成分を徹底的に調べることで、ついにアルツハイマー病の原因となるアミロイドβを排除するタンパク質の量から認知症の発症リスクを知る方法が確立された。
さらに、島津製作所の田中耕一記念質量分析研究所が科学情報誌nature電子版に「アルツハイマー病変を高精度で検出できる血液バイオマーカー」の発見を発表した。それを実現をしたのが、物質を構成する様々な分子を精密に特定することができる「質量分析装置」だ。少量の血液から脳内に蓄積しているアミロイドβを検出することが可能になり、アルツハイマー病の超早期診断ができるようになるという。
脳内に薬を届けるナノマシン
現在、アルツハイマー病治療の特効薬が存在しないことには、人間の身体の防御システムが関係している。脳は非常に大事な器官であるため、異物が入らないようにするバリア機能「血液脳関門」を持っており、治療のための薬もブロックされてしまうため、そもそも脳へは薬が届かないのだ。そこで作り出されたのが細菌や細胞よりもひとまわりも小さいウイルスサイズながら、血液脳関門を通過する仕掛けを持った「ナノマシン」。その仕掛けとは、脳の活動のために必要なエネルギー源「ブドウ糖」に紛れて血液脳関門を通過するというものだった。
主な取材先
[主な取材先]
内田 和彦さん(筑波大学)
片岡 一則さん(ナノ医療イノベーションセンター)
朝田 隆さん(メモリークリニックお茶の水)
島津製作所
メモリークリニック取手