歴史上の善人、悪人
東洋文庫ミュージアムで開かれた「悪人か、ヒーローか」展は、歴史上の人物たちの善と悪、その虚像と実像に迫るものだった。
当時「悪」とされた人物が後世に一転して「ヒーロー」として描かれる場合や、逆に歴史的な偉業を成した「ヒーロー」が後世の事情で「悪」と評価されることが少なくないことがわかる。
理性と情動か
善と悪の道徳的判断で大きな役割を果たすのは理性と情動だが、そのどちらがより中心的に働くのだろうか。東京大学の信原教授に尋ねた。一見すると理性のほうが重要そうだが、実は情動がないと人は多数の選択肢の中から意思決定すらできず、つまりは行動もできないのだと言う。また「泣く赤子のジレンマ」という思考実験からは、どの選択肢を選んでも悲劇的結末しかない場合の善や悪の考え方がわかる。
善と悪の脳科学
アラヤCEOの金井氏は「政治についての意見」のような、極めて現実的な社会を対象とした倫理的価値判断にも生物学的な要因があると考えている。保守かリベラルか?こうした政治的信条の背景には、脳構造の微妙な違いがあるのだという。
悪いことならわざとやったのだ!
善行や悪行を目にしたときに、それがわざとやったものか、それともそうではないのかか、人はどのように決めているのだろうか?
普通に考えれば意図的にやったのかどうかを見極めて、その後にその行為が良かったのか悪かったのかの判断する。しかし、2003年に哲学者のノーブ教授が発見した心理学的な現象「ノーブ効果」によれば、結果に対する道徳的価値の違いによって、それをわざとやったかどうかの判断は真逆になることが示されている。
科学技術の善と悪
科学技術には善にも悪にも利用できるデュアルユースな側面がある。サイバーダインCEOの山海氏はロボットスーツ開発・普及の第一人者だ。ロボットスーツは軍事転用が危ぶまれ、科学技術のデュアルユース問題としてもよくとりあげられる。科学の善の面と悪の面について、科学者はどう対応するべきなのか?
善にも悪にも変化する
善や悪などの道徳的判断はこれまで絶対的だったわけではない。
ある時代、ある集団において正しいとされてきた社会規範も時の移ろいと共に変化してきた。玉川大学の松元教授は社会規範への賛成を弱めるような「説得」によって道徳的判断が180度変化する時の脳活動に注目している。さらにはルールを変更できる能力がそもそも脳の構造の長年の進化によって備わった可能性もあるという。
主な取材先
信原 幸弘さん(東京大学)
金井 良太さん(アラヤ)
飯島 和樹さん(玉川大学)
山海 嘉之さん(サイバーダイン)
松元 健二さん(玉川大学)
東洋文庫ミュージアム