牛の生態学
現在、牛は世界で約15億頭も飼育されており、私たちにとって身近な動物である。では牛とは生態的にはどのような動物なのだろうか。牛の特徴の1つが、草食動物として草などの植物だけを食べて大きな体を作りだすことだ。どうして草だけであれほど大きな体に成長するのだろうか。その謎は牛が持つ“4つの胃袋”に隠されていた。
和牛の誕生
日本独自の牛として、まず思い浮かべるのは“和牛”だ。しかし、和牛は西洋種の品種との交配によって誕生した牛で日本の純粋な牛ではないのだ。和牛が誕生したきっかけは、明治時代以降の西洋文化との交流や富国強兵政策だった。もともと日本人は公には牛肉を食べない民族だったが、明治時代以降にいくつかの戦争を経験する中で牛肉を食べる習慣が浸透していき、それが和牛の誕生に関係していたという。
日本在来牛
では現在、日本には純粋な牛は存在しないのだろうか。実は日本には、日本在来牛という日本固有の牛が2種類生息している。1つは山口県萩市の見島に生息する“見島牛”。もう1つは鹿児島県トカラ列島の口之島に生息する“口之島牛”だ。驚くことに口之島牛は、日本で唯一の人間に飼育されていない野生の牛だった。
霜降り肉のルーツをさぐる
和牛の特徴の1つは “霜降りの肉質”だ。世界の牛を見ても和牛にしか存在しないこの肉質が、どのように誕生し、和牛に引き継がれたか?という問題はこれまで大きな謎だった。東京農業大学では、その謎をゲノムから解き明かす研究が行われていた。牛の遺伝子情報を調べ、霜降り肉の肉質に関連する遺伝子をさぐる取り組みだ。その結果、日本在来牛の“見島牛”のゲノムに霜降り肉のルーツが秘められていることが明らかになってきたのだ。
主な取材先
牛の博物館 川田 啓介さん
鹿児島大学 大島 一郎さん
東京農業大学 河野 友宏さん
家畜学研究所 印牧 美佐生さん
鹿児島県鹿児島郡十島村口之島
マザー牧場
前沢牛オガタ
山口県萩市見島(撮影協力)