渡部昇一さんの“正論”
万葉集から選ばれた新元号「令和」
日本人なら知っておきたい万葉集
万葉・大和言葉によって日本人は作られた
欧米人や近代人は個人生活においては「神の前で平等」「法の前の平等」を追求するだろう。しかし、日本人ははるか昔から「和歌の前に平等」を実現していたのだ。『万葉集』は、大伴家持が重要な役割を果たしているが、カースト的偏見はなく、農民、遊女の歌まで収録されている……。
戦前の子供たちは、今よりはるかに多くの漢字を知っていた。そういう戦前の小学生たちが必ず唄わされた歌に、四大節の歌がある。「四大節」という言葉も死語同様になったが、一年のうちで最も大切な儀式が行われる四つの祝日のことである。四大節の歌はすべて大和言葉の歌であり、これをすべての児童が唄っていたということは、知らず知らず、どこかに古代の言霊に連なる感覚を、日本人みんなが共有することになっていたのではないだろうか。
さらに言えば、国歌の「君が代」もすべて大和言葉である。
(本文より)
著者プロフィール
上智大学名誉教授。英語学者。文明批評家。昭和5年(1930年)、山形県鶴岡市生まれ。上智大学大学院修士課程修了後、独ミュンスター大学、英オクスフォード大学に留学。Dr. phil., Dr. phil. h.c.(英語学)。第24回エッセイストクラブ賞、第1回正論大賞受賞。
著書に『英文法史』などの専門書のほか、『文科の時代』『知的生活の方法』『知的余生の方法』『アメリカが畏怖した日本』『「日本の歴史」①〜⑦』『読む年表 日本の歴史』『渡部昇一 青春の読書』などの話題作やベストセラーが多数ある。平成29年(2017年)4月17日、逝去。
目次
序 章 日本語の核心にあるもの
──「祝日の歌」と大和言葉
四大節の歌と日本語
一月一日と紀元節の歌
天長節、明治節の歌と国歌
核心部にある大和言葉
第1章 大和言葉こそ日本語の源23
──外来語の漢語と何が違うか
大和言葉とは何か
漢語主体の歌の心情
大和言葉主体の歌の心情
外来語が外来思想を運ぶ
魂のふるさととしての大和言葉
名句は大和言葉から成る
大和言葉の世界と漢語の世界
漢語を用いる効用
片かな外来語の異化効果
蕪村・芭蕉・円朝と大和言葉
茂吉のグレイトネスの淵源
「新しい皮袋」説の浅薄
現代俳句は外来の語彙から腐る
山頭火の国民詩人たる由縁
第2章 万葉集の思想と大和魂の本質
──和歌の前に貧富貴賤女卑なし
「和歌の前に平等」の原理
和歌三神のバランス
和歌の前では性差別も消滅
和歌の起源と古代日本人の言語意識
皇子と火焼老人の交歓
神武天皇の歌と言霊の思想
大和魂の本源は求婚歌だ
男女の愛で国がはじまる
言葉自体に霊力がある国
「言挙げせぬ国」の起源
「伝達の手段」を超えるもの
なぜ表現が短縮されるか
舒明天皇とシェイクスピアの違いの根源
第3章 文化大輸入時代の和歌と言霊観
──尚古にして発展の真髄
重要なのは万葉集と古今集の連続性
外国文化輸入の例、鷗外と茂吉
漢語漢籍大流入時代の古今集の意義
大和言葉の普遍性
古今集序文、平安朝日本人のこころばえ
「鬼神をもあはれと思はせ」る言霊
注目すべきは尚古にして発展の相
なぜ帰化人・王仁が「歌の父」か
侍女が「歌の母」となった平等感覚
名歌となる条件とは何か
「和歌の徳」という観念の広がり
昇進を助けた和歌の徳
貫之に引き継がれた言霊信仰
「鬼神」や「天地」を動かす
頼朝が焼き付けた「和歌の徳」
「古今伝授」と細川幽斎のドラマ
壬生忠岑の言霊的伝説
縁起かつぎの原型
曾根好忠に見る「差別と平等」
和歌における革新とは何か
第4章 漢語混入で変わった日本語の原理
──外来語受容にみる英・独・仏語との比較
源氏物語の特殊な難解さとは
ノーマン・コンクェストの甚大な影響
ゲルマン語とラテン語はいかに混合したか
外来語混淆のパタン
英文学史と日本文学史の相似性
難解さの主因は語彙の代替
古英語と同質、大和言葉の根の張り方
漢語の混入で日本語の原理が変わった
フィヒテの「生ける言語」と「死せる言語」
国語の感性的部分と超感性的部分
言語の前の不平等
カントの哲学用語は難解か
何が知的英文と感性的英文を分けるか
海を謳う詩の言語
スチーブンソンと三島由紀夫の辞世
余論/海の記憶・日本人とゲルマン人
第5章 精神的資産としての日本語
──国語教育と外国語教育の役割
桜に感動する日本人
母国語の蓄積効果
国語は世界観である
「精神的私有財産」としての近親関係語
日本語のタテ糸を追放した国語教育
「精神的私有財産」の継承を
外国語教育は知性の練磨である
外国語教育と国語教育の真の意義
新版あとがき