リーダーとスタッフはいかにあるべきか
ドイツ参謀本部は、原因・結果の連鎖が明快で、後世の教訓になりやすい。近代的大組織の原型であり、今日の「頭脳(シンク・)集団(タンク)」の先駆的形態をなし、「リーダー」と「スタッフ」のバランスにこそ、組織が輝く秘訣があることを教えてくれる。重宝な歴史の鑑であるのだ。リーダー不在のいまこそ、日本は史上最強の「組織集団」に学ぶべきだ!
著者プロフィール
渡部 昇一(わたなべ・しょういち)
上智大学名誉教授。英文学者。文明批評家。1930年、山形県鶴岡市生まれ。上智大学大学院修士課程修了後、独ミュンスター大学、英オクスフォード大学に留学。Dr.Phil.,Dr.Phil.h.c.(英語学)。第24回エッセイストクラブ賞、第1回正論大賞受賞。著書に『英文法史』などの専門書、『文科の時代』『知的生活の方法』『知的余生の方法』『アメリカが畏怖した日本』『「修養」のすすめ』『「日本の歴史」①〜⑦』『読む年表 日本の歴史』などの話題作やベストセラー多数がある。
目次
まえがき 第1章 近代組織の鑑──ドイツ参謀本部 ──フリードリッヒ大王が制限戦争時代に残した遺産- 「教訓の宝庫」としてのドイツ参謀本部
- ヨーロッパの陸戦史、四つの時代区分
- 宗教的情熱からはじまり、宗教への幻滅を残した三十年戦争
- 三十年戦争が残した教訓
- ルール違反を許さないスポーツのような戦争
- 「制限」されていた絶対君主同士の戦争
- 兵士の逃亡──指揮官が最も怖れたこと
- 戦争を好み、戦闘を毛嫌いした君主たち
- 制限戦争時代のプロイセン
- 「戦闘なき戦争」が可能だった時代
- 大元帥にして戦場の指揮官、同時に参謀総長
- フリードリッヒ大王を常勝者たらしめた〝陰の男〟
- フランス革命が無制限の戦争を復活させた
- 安上がりで士気の高い国民軍の登場
- なぜ、ナポレオンの軍隊は強かったのか
- 天才的リーダーゆえの落とし穴
- 「大規模」という魔性
- プロイセン軍の動脈硬化
- 「最高戦争会議」の創設
- どん底に落とされたプロイセン
- プロイセン参謀本部の父・シャルンホルストの登場
- 改革の眼目は教育にあり
- マッセンバッハ・プラン
- 頼みの綱は、ただ一人
- 献策は容れられず
- 難航する軍制改革
- 「軍事省」の設置
- シャルンホルストの微妙な立場
- 反仏派の巻き返しと新軍制成立
- ナポレオン恐怖症の克服とシャルンホルストの死
- シャルンホルストの忠実なる後継
- 〝退きつ攻めつ〟の徹底的消耗戦
- いざ決戦、ライプツィヒへ
- 七年越しの仇
- 十四戦十一勝の敗者
- 天才・ナポレオンが見落としたもの
- 作戦的退却軍と敗残兵の大いなる違い
- 常勝の英雄の辞書に、敗戦後の計画はなかった
- グナイゼナウの功績と失意
- 改革思想の余燼⑴──ボイエン
- ボイエンの理想と相反する現実
- 改革思想の余燼⑵──グロルマン
- 軍縮時代のヨーロッパで突出した軍費
- 参謀本部の独立
- 軍事省、参謀本部、軍事内局──拮抗する三つの勢力
- 二つの戦争理論と国家の運命
- クラウゼヴィッツの〝野心〟
- 「戦争は政治である」
- 名著は遅れて世に広まる
- プロテスタントの風土からのみ発生しうる思想
- 過渡期の参謀本部
- 騎士的心情の国王・ヴィルヘルム一世の登場
- 文学的素養と文学者的外見を持った軍人
- トルコ軍に招聘される
- 侍従武官から参謀総長へ
- 鉄道は国家なり
- デンマーク戦争の勝利とモルトケの発言権拡大
- 普墺戦争での妙手
- ケーニッヒグレーツの戦い──史上最大の包囲作戦
- 武器革新にみるプロイセン参謀本部の勤勉
- 偉大な政治家と偉大な軍人の差
- 勝って兜の緒を締める──普墺戦争の徹底反省
- 対仏戦への入念なる準備と絶対の自信
- 現場の指揮官の独断を不問に付す
- 再び「外交の人」対「軍事の人」の対立
- モルトケの誤算
- 輝かしき栄光の中に翳りの徴候
- 組織の肥大化、構成の複雑化
- 〝創業者利得〟は永遠にあらず
- 二人の巨人が予言するドイツの運命
- 「神のごとき者」の後継者たち
- リーダーなきスタッフの悲劇
- シュリーフェン・プラン
- 小モルトケが参謀総長に任命された理由
- 骨抜きにされたシュリーフェン・プラン
- 「ドイツにもロイド・ジョージが欲しい」
- 強力なリーダーの出現への渇望
- ヒトラーと参謀本部
- ドイツ参謀本部の最期
- 「リーダー」と「スタッフ」のバランスにこそ
- 付録1「専門家の仕事を見かねる素人の立場について」
- 付録2「強弁の人・秦郁彦氏に答える」