人間とは倒れる瞬間まで働くものだ。
今や世間は時間当たりいくら高く自分の労働を売りつけられるかだけが関心の時代だ。しかし自分の矜持に重きを置き、人知れず他者のために危険を冒して任務を果たし続けるという充実感の実感者はいるはずだ。老人も労られる生活から、自分が働いて人に与える立場に現役復帰すべきである。与えてこそ「一人前」になるのだから、老人は死ぬ日まで、出来れば働かねばならない。人間とは倒れる瞬間まで働くものだ。少しもみじめではない。
著者プロフィール
曽野綾子(その・あやこ)
作家。1931年、東京生まれ。聖心女子大学文学部英文科卒業。ローマ法王庁よりヴァチカン有功十字勲章を受章。日本芸術院賞・恩賜賞受賞。
著書に『無名碑』(講談社)『神の汚れた手』(文藝春秋)、『貧困の僻地』『人間の基本』(新潮社)、『老いの才覚』(ベストセラーズ)、『人生の収穫』(河出書房新社)、『揺れる大地に立って 東日本大震災の個人的記録』(扶桑社)、『夫婦、この不思議な関係』『沖縄戦・渡嘉敷島「集団自決」の真実』『悪と不純の楽しさ』『私の中の聖書』『都会の幸福』『弱者が強者を駆逐する時代』『図解 いま聖書を学ぶ』『ボクは猫よ①、②』(以上、ワック)など多数。